魔法陣・1






「……あれっ!?」



まだ残像の残る目を開けると、俺も美戎の身にも特に何の異変もなかった。



「あぁ、びっくりした。
なにか大変なことが起きたんじゃないかと思って心配したぞ。」

「……ここ、どこだろう?」

「どこって、ここはゆかりさんの生家……」

言いかけて、俺は気付いた。
よく見ると、その部屋の様子は今までとどことなく違う。
ふすまの絵柄も違う……



「ど、どういうことだよ!」

「おっかしいなぁ…呪文間違ったのかな?印契かなぁ?
でも、ま、一応、これは成功になるのかな?」

美戎は、よくわからないことを言って、部屋を出ていく。



「お、おいっ!待てよ!」

部屋を出ると、若い陰陽師が俺達をみつけて驚いたような怒ったような顔を浮かべて、走って来た。



「こらっ!おぬし達!」

「は、はい、何か…?」

「何かではない!
下っ端の分際で、勝手に陰陽師頭の部屋に立ち入るとは何事だ!」

「す、すみません…」

そう言われて俺は理解した。
きっと、あの魔法陣は転送装置みたいなもので、あの部屋から美戎の呪文で陰陽師頭の部屋に転送されたんだ。



「これ、何の騒ぎです。」

「あっ!煎兵衛様!」

陰陽師は恭しく片膝を着いた。
俺達が立ったままなのを見て、慌てて俺達にも座るように促した。



「この者共が勝手に煎兵衛様の部屋に立ち入ったのでございます。」

「ほう、それはいけませんな。
おぬし達、名は何と申す?」

「は、はい…山之う…いえ、安倍川慎太郎と安倍川美戎と申します。」

今日からは、安倍川だと言われたことを思い出し、俺はそう答えた。



「な、な、なんと無礼な!!」

若い陰陽師は、突然、顔を真っ赤にして怒り出した。
でも、俺にはその怒りの意味がわからず、ただおたおたするしかなかった。
煎兵衛さんはというと、くすくすと笑ってる。



「面白い者だな…ん?」

笑う煎兵衛さんの目が美戎に停まり…突如として厳しい顔つきに変わった。



「そこな二人、部屋へ参れ。」

それは今までとは違う、厳しい口調だった。



「は、はいっ!」


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