「お…おいしい!」

「……当たり前だ。
俺が作るものにまずいもんなんてない。」

私はその言葉に全身の動きを停める。



な…なんですか?
私が思わず漏らしてしまった「おいしい」ってだけの感想に、そんな偉そうなこと言う?
……確かに「説教臭いのが欠点」にはしたよ。
でも、俺様キャラにした覚えはない…!
あ……でも、昨夜、書いてたひかりとのラブストーリーではちょっとそういうとこあったかも…
……ん?いや、違う!
そんなことじゃない!
今、私の目の前で一緒に朝ご飯を食べてる人は誰?
しっかりするんだ、美幸!!
オリキャラが実写版になって出て来るなんてこと、ありえないんだから。
でもでも、この人、私が頭の中に思い描いてたシュウのイメージとあまりにも合致してるよ。
一体、どういうこと……!?




(……ま、まさか、変質者とか凶悪犯!?)




おいしい朝ご飯のおかげでほっこりと落ち着いていた私の心臓は、再び、早鐘のように打ち出した。
確かに…他人の家に…しかも、若い女の子が一人で住んでる家に勝手に上がりこんで朝ご飯を作るなんて、まともな人間のすることじゃない!
……ハッ!まさか、この中には毒が……
いや、もうすでに食べたのになんともない所を見たら、睡眠薬が仕込んであって、私を眠らせて、そして……



頭に浮かんだ恐ろしい妄想に、私は箸を落としてしまった。




「あぁ〜……」



シュウは私に冷たい視線を向けて非難めいた声を上げ、だけど、すぐに別の箸を手渡してくれた。



「食事中は食べる事だけに集中しろ。」

「は……はい。」

私は、そう答えるのが精一杯だった。
どうしよう…ここから逃げ出さなきゃと思うけど、私が座ってるのは奥の方だから、逃げようとしてもきっとすぐに捕まってしまう。
それに、逃げようとしたら、逆上して殺されてしまうかもしれない…
私……一体、どうされるんだろう…?やっぱり……
……ううん、違う……そうじゃない。
こんなかっこいい人だから女に不自由してるはずはないし、わざわざこんな田舎に来るってことは…



目的は身体じゃなくて……殺人…
それも、考えられないような残酷で変質的な…



得体の知れない妄想は、私の心の中で恐怖の渦を巻いた。
どうしよう…どうしたら…いや、もう、きっと助かる手立てなんてない…!
私は…殺されてしまうんだ…



「うっ……」

そう思うと、私の目からは熱い涙が込み上げた。
こんな所でいきなり泣き出したらおかしく思われる。
私が気付いたことを悟られるかもしれない…
そう思うのに、恐怖が先に立ってしまい、私は涙を止めることが出来なかった。


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