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(……もうこんな時間か…)




その晩、僕はなぜだか少しも眠れなかった。
目を閉じ、無理に眠ろうとしても少しも眠くならない。
僕の頭の中に浮かぶのは、あの人形の顔…
とても綺麗だけど…とても寂しそうなあの顔…



(そりゃあそうだよな。
あんな所に一人ぼっちで放っておかれたんじゃ、寂しいに決まってる…
……って、人形がそんなこと考えるわけないか。
……でも……あの扉は僕が小さい時にはもう鍵がかけられていて、一度も開かれたことはなかったんだから、少なくとも二十年くらいは…いや、きっともっと前から閉じられたままなんだろうな。
そうでなくても、窓の一つもない地下室だ。
あんな暗くて冷たい所にいたら、たとえ、人形だって寂しいんじゃないだろうか?)



僕はとりとめもなくそんなことを考えては、頭を振った。



(いや、そんなことがあるもんか。
人形に心なんてないんだ。
暗いも冷たいも寂しいも、人形にはそんなこと、何も関係ないさ。
……それにしても、父さんはなぜあんな嘘を言ったんだろう?
あの部屋に薬の類いは何もなかった。
物置きというよりは、まるであの人形のための部屋のようだった。
……待てよ…もしかしたら、父さんもあそこにあの人形があることを知らなかったのか?
おじいちゃんからそういう風に聞いてたとしたら、本当にそう思っていたのかもしれないな。
この家は、確か、おじいちゃんがこの町に引っ越して来た時に買ったものだよな?
じゃあ、おじいちゃんももしかしたらあの部屋のことは知らなかったんだろうか?
だとしたら、あの人形は一体どれ程の昔からあそこにいたんだろう?)



僕の頭の中には次から次に疑問がわきあがり、ますます目が冴えて僕は眠れないまま、ついに朝を迎えてしまった。


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