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「アベル……アベル!!」
「……は、はいっ!
な、何?父さん…」
「……どうかしたのか、アベル。
さっきから何度も呼んでるのに返事もせずに、手も止まったままじゃないか。
ここんとこ、なんだかやけにぼーっとしてるな。
体調でも悪いのか?」
「え…あ…あぁ、たいしたことはないんだけど…なんだかちょっと風邪ひいたみたい…」
「体調が悪いなら悪いと言えよ。
今日はもう部屋で休んでたらどうだ?」
「う…うん。
じゃ、そうさせてもらうよ。」
僕は止め具だったり簡単な部分しか作ってはいないけど、体調の悪い時には怪我をしやすいし、万一、作っているものに血でもついてしまったら依頼主に申し訳ないと、父さんはそういうことにはけっこう気を遣っていた。
本当は体調なんてなんともないから胸は痛んだけど、そんなことから僕は素直に父さんの言いつけをきくことにした。
夕食の準備をするにはまだ早いし、なにかすることはないかと考えた時、僕の頭の中にはまたしてもあの人形のことが思い浮かんだ。
実をいうと、ここ数日ずっとあの人形のことが気にかかって、夜もろくに眠れない程だった。
(また見に行ってみようか…)
なぜ、こんなにもあの人形のことが気になるのだろう…?
(……どうかしてる…)
明らかにおかしい。
確かにあんな所にあんな人形があるのはとても不自然で、なにか意味があることなのかもしれないけれど、眠れなくなる程、思い悩むことではない筈だ。
なのに、僕と来たら、あの日からずっとあの人形のことばかり考えて…
あの人形のことが頭から離れない。
僕は思い直し、地下ではなく自分の部屋に戻り、ベッドにごろりと寝転んだ。
なにげなく天井を見上げる…
「やっぱり、だめだ!
もう我慢出来ない!」
僕はそう声に出してベッドから飛び起き、地下に向かって走り出した。
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