そのことを不思議に感じた僕がその理由を訊ねると、彼女は小さく笑った。



「だって…私はひとりぼっちになっても今の両親にとても大切に育てられたんだもの。
そのおかげで体調は優れなくても、私はこうして生きてられる。
そして……あなたと出会えた。
こんなに幸せなことはないわ。
ねぇ、アーロン…幸せかそうじゃないかなんて、基準があってないようなもんだと思わない?
私から見れば何一つ不自由のない生活をしてるように思える人の中には、現状に少しも満足してない人だってたくさんいるわ。
そういう人は他の人と比べて自分が劣っていると思う事をわざわざみつけだしては、大袈裟に嘆くのよ。
あの人みたいに綺麗だったら…とか、あんなにお金持ちだったら…とか…そんなことばかり気にして、自分がいかに恵まれているかってことに少しも気が付いていない。
そういう人こそが、本当は一番不幸なんじゃないのかしら?」



それは僕にとっては嬉しいけれど、とても意外な言葉だった。
彼女が言いたいことは僕にもわかる。
きっと、それは正論なのだとも思える。
だけど、彼女はどこか自分の本心を偽っているようにも思えた。
なぜならば、彼女は妹と父親を失い、母親が酒に溺れて廃人のようになってしまったことをすべて自分のせいだと思いこみ、新しい両親に引き取られて来た時は、深く傷付き心をなくした人形のようだったと、彼女の義母・バーバラに聞いたばかりだったから。

バーバラとその夫はオルガのことを実の娘のように慈しみ大切に育てた。
オルガがその深い傷を癒し、これほど前向きになれたのはがそんな風に温かい愛情を与えられたおかげなのだろうか…
どれほど深い悲しみも、それを上回る愛情を得ることが出来れば…人は変わることが出来るものなのだろうか…?




(こんな僕でも……?)



そんな想いが僕の背中を押した。
僕は不幸な僕を受け入れていたつもりではあったけれど、心の奥底ではやはりそれを変えたいと思っていたことに気が付いた。
しばらくして、僕はオルガにプロポーズした。
一生、一人で暮らしていくつもりだった僕が……今までどんなに綺麗な女性を見ても心のときめかなかった僕がこんなことをするなんて、自分でも信じられないような気持ちだった。



変わりたいと思った瞬間から、すでに変わり始めていたことに僕は気付いた。



そして、僕らは結婚した。
町の小さな教会で、ごく親しい者達を呼んだだけの質素な結婚式だったけど、心の中が温かいもので満たされるような…僕は生まれて初めてそんな時間を体験した。


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