低い垣根越しに子供達のはしゃぐ声と、若い夫婦の笑い声が聞こえ、僕はふと足を停めた。
声の方に目をやれば、そこには日当たりの良い広い庭で戯れる家族と、一匹の大きな犬がいて…
その背後には、まだ建てられてそう何年も経っていなさそうな白い壁の屋敷が佇んでいた。

目の前の光景に僕は想った。
きっと、こういうのを絵に描いたような幸せと呼ぶのだろう…と。




その人間の運や人生なんて、多分、生まれる前に決まってるんだと思う。
そして、この僕は、世間でよく言われる「不幸な星の下」にでも生まれたのだろう。



子供の頃はそんなことに気付いてさえもいなかった。
ただ、うちにはいつも金がなく、貧しかったことくらいは気付いていた。
不満もやがて慣れに変わり、慣れてしまえばそれがごく当たり前のことに思えた。
ほしいものや食べたい物があっても、そんな願いは叶えられない。
幼い僕は、そんな日常をありのままに受け入れていた…いや、それしか知らなかったから疑問を感じなかったのだと思う。

僕が八つになった頃、両親が亡くなった。
死因はわからず、死んだ両親の姿も僕は見ていない。
それがどういうことなのかを理解したのは、大人になってからのことだった。
両親は、自ら命を絶ったのだ。

両親が亡くなったことで僕は施設に入り、そのことで苛められたことはあったけど、施設の先生達は優しかったし、そこに暮らしていたのは、皆、同じような境遇の友達ばかりだったから、それことをそれほど運の悪いことだとは思ったことはなかった。

僕がようやく現実というものに気が付いたのは、施設を出て一人暮らしを始めた十八の頃だった。
職場で僕が生い立ちを話すと、それを聞いた大人達は決まって僕を憐れむような瞳でみつめ、皆、同じような言葉を口にした。



「大変だったわね。」

「苦労したのね。」



そんな言葉を投げ掛けられるうちに、やっと僕は自分が不幸な人間だったことを知ったんだ。


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