「おいっ、今、なにか聞こえなかったか?」

そう言って、唐突にダルシャが立ち止まる。



「俺は何も聞こえなかったけど…セリナ、何か聞こえたか?」

「いいえ。特には気付かなかったけど…」

「あんたらはどうだ?」

声をかけられたフレイザーとエリオットは同時に首を振った。



「いや、確かに聞こえた。」

「ダルシャ、何が聞こえたんだ?」

「何って……しっ!」



口許に人差し指をあて、ダルシャは目を瞑って耳を澄ませた。



「こっちだ!」

「お、おいっ!ダルシャ、待てよ!」

確信を持って走り出したダルシャに、四人は続く。
ダルシャに着いて山の中を走るうちに、四人の耳にも微かな泣き声のようなものが聞こえ始めた。



「本当だ、誰かが泣いてる!」

「子供じゃないか!?」

「いたぞ!あそこだ!」



ダルシャの指差す先には、木の根元にうずくまって泣きじゃくる子供の姿があった。
その状況から見て、子供は木から落ちたようだ。
五人は走るのをやめ、ゆっくりとその子の傍に近付き、五人の足音に気付いた子供はゆっくりと顔を上げた。



「あ!!」



子供の顔を見たエリオットの口から短い叫び声が飛び出た。
子供の顔は茶色い毛に覆われた狼のものだったからだ。
同様に子供も驚いたような表情を見せ、やがて、牙をむき出して低いうなり声を上げ始める。



「大丈夫、この者達は悪い人間じゃない。」

子供の傍に歩み寄ったダルシャの腕を興奮した子供が噛みつき、赤い血が流れ出す。



「ダルシャ、血が…」

「大丈夫だ…この子は怖がっているだけだ。」

そう言いながら、ダルシャは子供の瞳をじっとのぞきこむ。
ダルシャと獣人の子供はそのまましばらくみつめあい、やがて子供はゆっくりと口を離した。



「どうしたんだ?
どこか痛むのか?」

ダルシャは自分の傷を顧みず、子供に優しく声をかけた。



「ぼ…僕、木から落ちて…足が…」

搾り出すような声でそう訴えると、子供の瞳からは丸い涙がぽろぽろと零れ落ちた。



「足が痛いのね。
ちょっとお姉ちゃんに見せてね。」

子供は近寄るセリナに唸り声を上げたが、今度は噛みつく事はしなかった。
セリナは恐れることなく子供の足を診る。


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