1
「おいっ、今、なにか聞こえなかったか?」
そう言って、唐突にダルシャが立ち止まる。
「俺は何も聞こえなかったけど…セリナ、何か聞こえたか?」
「いいえ。特には気付かなかったけど…」
「あんたらはどうだ?」
声をかけられたフレイザーとエリオットは同時に首を振った。
「いや、確かに聞こえた。」
「ダルシャ、何が聞こえたんだ?」
「何って……しっ!」
口許に人差し指をあて、ダルシャは目を瞑って耳を澄ませた。
「こっちだ!」
「お、おいっ!ダルシャ、待てよ!」
確信を持って走り出したダルシャに、四人は続く。
ダルシャに着いて山の中を走るうちに、四人の耳にも微かな泣き声のようなものが聞こえ始めた。
「本当だ、誰かが泣いてる!」
「子供じゃないか!?」
「いたぞ!あそこだ!」
ダルシャの指差す先には、木の根元にうずくまって泣きじゃくる子供の姿があった。
その状況から見て、子供は木から落ちたようだ。
五人は走るのをやめ、ゆっくりとその子の傍に近付き、五人の足音に気付いた子供はゆっくりと顔を上げた。
「あ!!」
子供の顔を見たエリオットの口から短い叫び声が飛び出た。
子供の顔は茶色い毛に覆われた狼のものだったからだ。
同様に子供も驚いたような表情を見せ、やがて、牙をむき出して低いうなり声を上げ始める。
「大丈夫、この者達は悪い人間じゃない。」
子供の傍に歩み寄ったダルシャの腕を興奮した子供が噛みつき、赤い血が流れ出す。
「ダルシャ、血が…」
「大丈夫だ…この子は怖がっているだけだ。」
そう言いながら、ダルシャは子供の瞳をじっとのぞきこむ。
ダルシャと獣人の子供はそのまましばらくみつめあい、やがて子供はゆっくりと口を離した。
「どうしたんだ?
どこか痛むのか?」
ダルシャは自分の傷を顧みず、子供に優しく声をかけた。
「ぼ…僕、木から落ちて…足が…」
搾り出すような声でそう訴えると、子供の瞳からは丸い涙がぽろぽろと零れ落ちた。
「足が痛いのね。
ちょっとお姉ちゃんに見せてね。」
子供は近寄るセリナに唸り声を上げたが、今度は噛みつく事はしなかった。
セリナは恐れることなく子供の足を診る。
- 66 -
しおりを挟む
コメントする(0)
[*前] | [次#]
トップ
章トップ