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「ダルシャ……本当にここで間違いないのか?」
「そのはずだがな……」
三人の顔は汗にまみれ、疲労の色が濃く現れていた。
森に踏み込んでしばらくは、特に異変はなかった。
鬱蒼とした深い森ではあったが道らしきものもあったし、人が入ったような痕跡もあり、もちろん、獣人に襲われることもなかった。
だが、奥へ進む程に森は深さを増し、草木の海をかきわけながらの進行は、とても骨の折れるものとなった。
「こんなところで襲われたらおしまいだな。」
「物騒なことを言わないでくれ。」
「おい、エリオット…このあたりの草を一気に燃やしてしまえないのか?」
「そんなことしたら、ボク達まで黒焦げだよ。」
「……そうだ。」
「おっ!」
急に立ち止まったダルシャの背中に、ラスターの頭がぶつかった。
「なんだよ、突然止まるなよ。」
「エリオット、君の魔法でちょっとこのあたりの様子を見て来てくれないか?
まさかとは思うが、どこかで道を間違ったのかもしれない。」
「道なんてなかったじゃないか。」
「……それはそうだが…もしかしたら方角を間違っているのかもしれない。
いくらなんでも、獣人がこんな所に住んでるとは思えないじゃないか。」
「わかったよ。
じゃあ、ちょっと見て来るね。」
エリオットがもごもごと口の中で小さな呪文を唱えると、その身体が重さを失ったかのようにふわりと浮きあがった。
背の高い草木のさらに上の方まで浮かび上がると、エリオットはそのまますーっとすべるように森の奥地へ進んで行った。
「……すごいな。
まるで、鳥……いや、天使みたいだ。」
「確かにそうだな。
あの子が魔法使いだってこと、ふだんはすっかり忘れているから、ああいう姿を見るとなんだかとても不思議な気分だ。」
「……なぁ、ダルシャ……
もしも、獣人と戦うことになったら……エリオットは、魔法を使えるんだろうか?」
「使えるさ。
だが…そういうことにはならないでほしいと思ってる。
私はあくまでも……」
「話し合いだろ?
そんな甘いことばっかり言ってて、酷い目に遭っても知らねぇぞ。
獣人は人間を憎んでる、とても凶暴な奴だって話だぜ。」
ラスターの棘を含んだ言葉に、ダルシャは優しく微笑んだ。
「……あいにくと、私はロマンチストでね。」
ダルシャのその一言に、ラスターは小さく舌を打った。
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