「いつまで寝とるんじゃ!
さぁ、行くぞ!」

まだ、夜も明けきらない頃、ダグラスが五人を起こす大きな声が部屋の中に響き渡った。



「……いくらなんでも早過ぎるんじゃないか?」

大きな伸びをしながらラスターがゆっくりと身体を起こす。



「朝食の準備ももう出来とるぞ。
さぁさぁ、急いだ、急いだ。」



慌しく叩き起こされ、半ば無理矢理に朝食を詰めこんだ一行は、森の奥を目指して歩き始めた。
ダグラスは、老人とは思えない程の軽やかな足取りで先頭を歩く。



(あの爺さん、やけに張りきってるな。)

ラスターは隣を歩くフレイザーに小声で話しかけた。



(張りきり過ぎだ。
こんなんじゃ魔物が出て来ても、眠くて戦えないぞ。)

(元々、誰もあんたの腕は期待してないけどな。)

(なんだとぉ…)

ラスターの言葉に激しい怒りを募らせながら、フレイザーは拳を固く握り締めた。



(フレイザー、私は頼りにしてるわよ。)

後ろから片袖を引っ張られ、フレイザーが振り向いた先には微笑むセリナの顔があった。
その顔を見ると、フレイザーの苛立ちも急速に溶けていく。



(ありがとう、セリナ。)

その様子にラスターが小さな舌打ちをするのを見て、フレイザーの機嫌はさらに回復した。



ダグラスの家を出てから、森はどんどん深くなって行った。
しばらく歩くと、空がほとんど覆い隠されるようになった。
空に浮かんだ明るい太陽は、僅かな木漏れ日としてしか届かない。
さらに、進んだ所で、皆の足がぴたりと止まった。



「な、なんだ、ありゃあ…」

声を上げたフレイザーの視線の先には、真っ黒な木々が立ち並んでいたのだ。



「あの黒い木から先が魔物の森じゃ…」

五人は黒い木々の立ち並ぶ魔物の森の入口をあらためてみつめる。
明らかに普通ではない黒い木は、まるで両手を広げて他者の侵入を阻んでいるように見えた。



「おい、いつまでこんな所に突っ立てるつもりなんだ?
さっさと行こうぜ!」

ラスターは強気な声でそう言うと、黒い木に向かって足を踏み出した。


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