「もう!つまらないことで喧嘩しないの!」

セリナが、珍しく大きな声を出した。



「あ〜あ、こんなことならわざわざ来るんじゃなかったな。」

ラスターは、ふて腐れた様子で足もとの石ころを蹴飛ばした。



「……そういえば、ラスター、君はまさかここまで歩いて来たのか?」

「当たり前だ。
馬車の値段を聞いたら、馬鹿馬鹿しくてとても払えなかったからな。」

「それは大変だったな。
ずいぶん早く出て来たのだろう?
休まなくて大丈夫なのか?」

「そんなやわな身体じゃないさ。
貧乏人は、貴族様とは違って丈夫に出来てるんだ。」

そう言うと、ラスターは足早に歩き始めた。



「……なんか、機嫌悪いね…」

ラスターの後姿をみつめながら、エリオットがぽつりと呟く。



「まぁ、このあたりにいる限り、彼の機嫌は直らんだろうな。
仕方ないさ。」

「それにしてもこの辺は本当に森ばかりなのね。」

「確か、どの森にも名前が付いてるはずだが、多過ぎて忘れてしまったよ。」

他愛ない話を続けているうちに、不意にダルシャの表情が変わった。



「あれが、魔物の森だ…」

魔物がいるというのは嘘だと聞いたにも関わらず、ダルシャの心の中には幼い頃の記憶がまだしっかりと刻まれているようだった。



「大丈夫だって!あそこにはなにもいないんだから…
あ、でも、ナジュカはいるかもしれないって言ってたな。
じゃあ、ナジュカだけは見ないように気を付けなきゃな!」

ダルシャの心中を察したのか、フレイザーはわざと明るい声でそう言った。
ダルシャもその気遣いに応えるように、僅かに微笑む。







「なんだ、なんだ?
魔物なんてどこにもいやしないじゃないか。」

ラスターはあたりを見渡しながら、不満げな声を出した。



「だから言ったじゃない。
あれは、ダルシャをこの森に近付けないための嘘だって。」

「だって、それは薬屋の爺さんが…」

「まぁ、そんなこと、どうでも良いじゃないか。
いない方が楽で助かるし。」

「それにしてもリュシー叔母様の言った通りだ。
こんな森で迷ってしまったら、絶対に出られないな。
ラスター、ダグラスさんの家は本当にこっちで合ってるんだろうな?」

「あんたと一緒にするなよ。
俺は聞いて来た通りの道を進んでる。
間違えっこないさ。」

強い口調でそう言ったラスターが、しばらく進んだ所で不意に立ち止まった。


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