001 : ささやかな祈り1






「リュックったら、一体、どこへ行ったのかしら?」

「もしかしたら、マルタンさんのことが気になってあの丘に戻ったのかもしれませんね。」

「そうなんでしょうか…
本当に困った子だわ…」

「まぁ、じきに戻って来られると思いますよ。
心配はありません。」

「ええ…」

クロワとクロードは、暗い夜道を並んで歩いていた。



「クロワさん…以前、診療所をおやめになる時、僕のことは嫌いではないとおっしゃって下さいましたよね?」

「え…ええ…」

「あれから、その気持ちは変わってませんか?
あなたのことを追いかけて来たことをお怒りになってはいらっしゃいませんか?」

「……いえ。
そんなことはありません。
先生のお気持ちはありがたいと思っています。
ですが…」

「私は誰のことも愛さない。一生、誰とも結婚する気はない。
私はそういう幸せを求めてはいけない女…
……確か、そうでしよね?」

「……先生は意地悪ですね。」

クロワは小さな声でそう答えた。



「クロワさんの心の闇は、僕がいつか必ず晴らしてみせますよ。
さっき、あの丘で誓った通り、僕はあなたに一生を捧げる覚悟なんですから。」

「先生、そんな馬鹿なことはおっしゃらずに早くご自宅へお戻り下さい。
ご両親もご心配なさってるはずですわ。」

「心配?とんでもありません。
僕は両親に、あなたを追って旅をすることも、クロワさんと一緒でなければ戻らない事もちゃんと言ってきています。
家のことは兄が継いでくれてますし、診療所は従兄弟がやってくれてますし、僕は心置きなくあなたの傍にいられるのですよ。」

その言葉に、クロワからの返答はなかった。
クロワ自身、自分がクロードに対してどういう気持ちを持っているのかということが整理しきれないでいた。
なんせ、クロワにとってこんなことは初めてのことなのだ。
クロードを人間として尊敬はしている。
そんな男性から好意を示されるのは女として嬉しい反面、そのことが大きな負担にもなっていた。



(私は、愛される資格なんてない女なのに…)



クロードが自分の元から去ってくれることを望みながらも「嫌い」だとは言えない…
それがなぜなのか、クロワは自分の気持ちが理解出来ないでいた。


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