010 : 「契」1


「それでどうしたんだ?」

「再会した晩には彼とこの六年間のことを一晩かけて話しあいました。
奇遇といいますかなんといいますか…彼も戴冠式の後、ある女性と知り合い、そして結婚して子供まで授かったそうです。
それがあのステファンです。」

そう言ってブランドンは、ベッドですやすやと眠るステファンに視線を移した。



「ですが、ちょうどステファンが出来た頃、彼は新しく始めた商売が軌道に乗ったこともあり、家にも戻らない日が続いていたそうです。
彼はとにかく今が稼ぎ時だと思って、すべての情熱を仕事に注いだそうです。
おかげで、その数年間で彼は莫大な財産を築いたと言っていました。
彼は、自分の先祖が建てた屋敷を買い戻すという夢があり、もう少しでその金が出来る…
そうすれば、妻と子を連れて帰ろうと思っていたそうなんです。ところが、ステファンの出産の時にも傍にいない、産まれてからも子育てもまるでせずに仕事にばかりかまける夫に愛想をつかし、奥さんがステファンを置いて出て行ったのだそうです。
彼は、自業自得だと諦めていました。
妻への償いのためにも、これからは、自分が愛情を持ってステファンを育てて行くんだと意気込んでいました。」

「そうだったのか…
フランクリンさんも急ぎすぎたんだな、きっと。
もっと時間をかけてゆっくり貯めれば、大切な家庭を壊す事はなかったんだろうにな。」

「そうですね。
僕もそう思います。
でも、きっとそういうことは後で気付くことなんじゃないでしょうか?
その渦中にいると、なかなか気付かないことってありますよね。」

「もっともだな。
それで、それからどうなったんだ?」

「それから、しばらく経ってあと数日で港に着くという時に、不幸なことが起きてしまったのです。
前夜、彼は風呂場で眠ってしまい、そしてそのまま…」

そう言って、ブランドンは哀しげに瞳を伏せた。



「まさか…溺れちまったのか?!」

「そうなんです…あまりに突然の出来事に、僕も信じられませんでした。
前日まであんなに元気だった彼が…
しばらくは何も考えられませんでした。
しかし、ステファンのことをそのままにしておくことは出来ません。
彼は、親も兄弟もいないと言ってましたから、ステファンは僕が育てていくしかないと思いました。」

「あんた、良い人なんだな。
いくら船で知り合ったとは言え、そこまで考えるなんて…」


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