翌日、放課後。さっさと治してこい、と心なしほっとした顔の跡部に送り出されて、俺とジローは歯医者の待合室にいた。もうすぐ青学との交流試合もあるってのにいいのか。跡部曰く「虫歯ごときで集中力を削がれちゃ困る」らしいけど、単にこいつが虫歯を放置しそうで心配だったんじゃないだろうか。実際ジローだけなら虫歯なんて気にも留めなかっただろう。虫歯を舐めるなよ、ちゃんと治さねえとえらい目にあうんだぜ。横長のソファに座って足をぷらぷらさせながら、眠そうなジローの頭をはたいた。たぶんもうすぐ呼ばれるだろうから。

「岳人…地味にいたい……」
「痛くしてんだよ。いいから起きとけ」

ぶつぶつ何事か文句を言われたけど痛くもかゆくもない。むしろもっと言ってみそ?って感じ。すぐに悪口のレパートリーが尽きたのか黙り込んだけど。それから少しして、ジローが俺の肩にもたれ掛かってきたちょうどその瞬間に「芥川さん」と呼ばれて、早く帰りたかった俺はサッと立ち上がった。ジローはソファに倒れ込んだ。

「岳人のばかー!」
「忠告はした。また寝たお前が悪い」
「ふふ、お友達ですか?」
「あ、はい、付き添いです」

歯科医助手のおねーさんに笑われた。それはいい。だから寝るなってんだよくそジロー。二、三度また頭をはたいて、ようやく目を開けたジローの背を押して診察室に入った。

「今日はどうされました?」
「こいつ、虫歯みたいで。本人は痛くないっつって意地張るんですけど…」

なるほど、と先生が頷く。ジローは頬を膨らませて何も言わない。とにかく一度診てみましょう、と言われて、診察台に寝転がったジローの手を握った。案の定、先生は俺らに不思議そうな目を向けてきた。

「あ、俺の事は気にしないで下さい。こいつ、隙あらば寝ようとするんで……」
「ちょっと!子供扱いしないで欲しいC!」
「とか言ってこないだの健康診断で寝たのは誰だよ。いいからおとなしく起きとけっての」

ぶーたれるジローの頬をつねって、先生と助手のおねーさんに頭を下げた。まったく、もうすぐ高校に上がるっつーのに何やってんだか。幸いまだまだ初期の虫歯だったらしく、手軽に治療されてくジローを見てふと思う。もしかして俺、これからもコイツに付き合わされんの?
答えてくれたのは、ジローの歯を削る金属音だけだった。




慈郎くんと歯医者(と保護者)






つまり治療中にジロくんの手を握る向日を書きたかった
幼馴染みいいよね

2011/6/23
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