wish※死ネタあり
オレには、二人の姉さんがいる。
一人はブルー姉さん。マサラタウンから拐われてきた、オレと三つ年上の女性だ。初めて仮面を取った時、その綺麗な青い瞳に目を奪われたものだ。
もう一人はなまえ姉さん。拐われたショックで故郷を忘れてしまったという、ブルー姉さんよりも一つ年上の女性。彼女が仮面を外した瞬間、その儚いマゼンタの瞳を見て切なくなったのを覚えている。
オレにとって、義理とはいえ本当の姉のように感じていた。
けれど、ブルー姉さんはずっと両親を探していた。それが、『本当の家族』では無い事の証明のようで、半ば複雑な気分だった。もちろん、姉さんが幸せになる事がオレの幸せだから、応援したいという思いは嘘では決してないけれど。
その気持ちを察してか、なまえ姉さんは目を細めて微笑みながら頭を撫でてくれた。「もう、子供じゃないよ」そう俺が言うと、少し寂しそうな目をした。
そして、なまえ姉さんの協力の甲斐あってか、ブルー姉さんの両親は見つかった。
「姉さんありがとう!
アタシ、本当に嬉しい……っ」
「貴女の両親も、貴女を探してたのよ」
そう言って大人びた顔で笑った彼女は、やっぱり寂しそうな目をしていた。
オレも、自分の親に合ってみたい。泣きながら喜ぶブルー姉さんを見て、確かにそう思った。
そしたらなまえ姉さんがオレの心を読んだみたいに顔を覗き込んで「今度は、シルバーの番ね」と笑った。その笑顔はオレの好きな姉さんの綺麗な笑顔だったけれど、どうしてか胸が苦しくなった。
「姉さん、は?」
嗚呼、聞かなかったら良かった。
問い掛けた瞬間に歪んだ彼女の顔を見た瞬間に、思った。ブルー姉さんも驚いたように姉さんの顔を見つめていた。
だって、どんな時も崩れなかった姉さんの顔が、分かりやすい位に崩れたんだ。
結局、その時はオレも姉さんも聞けなかった。
けれどその答えは、案外日が経たずに聞ける事になる。
オレが本当にトキワへと足を運び、ルーツ探しをした、その日に。
オレの親は、ロケット団首相サカキだった。
自分の親が犯罪者だなんて信じられなくて、目の前が真っ暗になった。オレも、ブルー姉さんのように、両親との再会に涙を流すかもしれない。これからはゴールドの家のように温かい家に住めるかもしれない。
……そんなのは、夢物語に過ぎなかったんだ。
絶望するオレの前に、なまえ姉さんが現れた。
パートナーのゲンガーの背中に乗りながら、心配そうな顔をしていた。
「この男が、オレの父だったんだ」
そう言うと、こいつがロケット団首相だという事を知っていた姉さんは驚いたように目を丸くした。
「でも……」
「悪党である奴が……っ、オレの父だなんて……!!絶対認めない……!!」
「っ、待ちなさいシルバー!」
「オレは……っ、オレが求めていたのは……っ、違うんだ……!!」
「シルバー!!!!」
ヤケになって大きな声を出すオレの言葉をかき消す位に、なまえ姉さんが耳を劈く位に大きな声を出す。
その声にビクリと体を強ばらせると、姉さんは優しくオレの体を抱き締めた。
「姉、さん」
「私の親はね、」
声が、震えている。姉さんの顔はこちら側から見えないけれど、泣きそう、なのだろうか。何があっても泣かなかった、姉さんが?
「──自殺したの」
「……え?」頭が真っ白になる。
おおよそ、今の言葉が理解出来なくて、言葉が出ない。ただ、彼女が震えていて、オレを抱き締める力が強くなった事を感じるしかなかった。
「ブルーの親みたいにね、諦めずに私を探してくれた訳じゃ無かったの。私の両親は見つからないと諦めて、心中したんだって」
馬鹿よね。その声は愛しさと哀しさが滲み出ていた。
あの時、姉さんは既に知っていたんだ。
自分の両親はもういなくて、ブルー姉さんのように両親と再会する事は出来ない事も、ルーツ探しをしたって意味が無い事も。
「だからね、シルバーはいるじゃない、ちゃんと。
自分の家族を否定しちゃ駄目よ」
抱き締めていた腕が優しく離れていき、姉さんの顔が見えた。
その顔は、初めてみる泣き顔で、なのにどこか綺麗だと思ってしまった。
「私は、自分の事よりもシルバーの事が大事よ」
「それは、……」
オレの方だよ、姉さん。
なまえ姉さん。両親と幸せになれなかったのなら、せめて、違う幸せを見つけて欲しい。そう、本当に思った。
その幸せの中に、どうかオレも交ざってると嬉しいな。
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