passionately 最近、師走駆の元気が無い。
それに気が付いたのは、よくコンビで活動している如月恋だった。最初は気のせいかとも思ったのだけれど、定期的に溜め息を吐かれたら流石の恋も気にならざるを得なかった。
「どうしたよ、駆」
「…………ん?何か言った?」
……ああ、これは駄目だ。
かなりボケッとしていたらしく、恋に話しかけられたとは思えない位に純粋な瞳を向けてきた。いつだって彼は恋にはドライだったはずなのに、だ。
「本当にどうしたんだよ!?」
「な、なになになに!?
どうもしないけど!?」
恋がショックのあまり、駆の肩を掴んで思い切り前後に揺らした。さすがに正気を取り戻した駆は驚いたように大声を出した。
その大声を聞き、ぴたりと手を止めるけれど、それでも心配したように自分をみる恋に、駆は少し考え込んだ。
確かに、自分の中でふとした変化を感じていた。
それは自分自身も気付いていなかった事だが、彼の言葉を聞いてその事を見つめ直して──今、分かったかもしれない。
「恋、かな」
「俺がどうかした?」
「恋の事じゃないって」
「でも今『恋』って……」
言いかけて、ハッとする。
駆が、顔を真っ赤にしていたのだ。
その顔は背けられてしまったので一瞬しか見えなかったけれど、初めて見る駆の顔だった。……『恋』って、そっち!?
有り得ないと勝手に思っていた事が、もしや発覚するとは思わず、恋は目を疑った。
「……マジ?」
「…………マジ」
顔を覗き込もうとして、避けられる。
「あ、相手は!?」
「しー!!皆に知られたら絶対からかわれる!!」
「駆の声の方がでっかいけどな!?」
「うるさいなぁっ!」
自分でも訳分からない位に心臓がバクバクしてるのだ。
彼女の事が頭からずっと離れないと思っていたけれど、まさかそういう事だは思いも寄らなかった。
「……バイト先の、女の子」
「バイト先って……どれ?」
「花屋……花を持った彼女、本当に可愛いんだよね……はぁ、今改めて自覚した」
彼女が、好き、だ。
花を持っている彼女を思い出した瞬間、胸がこれ以上無い位に熱くなった。花なんかよりも、彼女の笑った顔が可愛らしくて。それしか頭に無かった。
「お、おお……」
相方が、自分の持ち得ない感情を抱いた事に、恋は圧倒された。
だってそんな感情なんて知らないし、想像もつかない。むしろ自分『達』には関係の無い感情だと思っていた。
(恋焦がれるって、こういう事を言うんだな……)
自分の名前が恋だというのに、恋という感情を一切持った事が無いので、彼の様子を見て知る。
先程までは溜め息を吐いたり、ボケッとしていたりしたのに、今は晴れやかな顔をして薄く笑っていた。その様子はどこか幸せそうでもあった。
その顔を見るだけで、こちらも幸せな気分になる気がする。
「応援するからな!」
彼の手を掴みながら明るく笑えば、駆も嬉しそうに笑ってくれた。
手癖で書くと、つい男キャラの独白みたいなのを書いてしまう。
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