幸せな一日はあっという間に終わってしまう。
 動物園デートの翌日、しかし俺の幸せは絶賛継続中である。

「あっ。拓実、崎、おはよ〜」
「……おはよう」
「樹ちゃん、おはようっ!」

 朝、下駄箱で遭遇した拓実と並んで廊下を歩いていたら、後ろから樹ちゃんが声をかけてきた。俺が満面の笑みで挨拶を返したのに、樹ちゃんは間髪入れずに「キモッ!」とでかい声で叫びやがった。キモくねーよ。たまに思うけど、樹ちゃんって俺に対してだいぶ失礼だよな。いいけど。

「え、え、なに? 崎、なんでそんなニコニコしてんの? 朝はいつも機嫌悪いじゃん」
「なに後ずさってんだよ。俺だって最高に機嫌がいい朝ぐらいあるよ。エヘヘッ」
「た、拓実ィ〜! こわいよ〜!」
「……同意見だ」
「あ、そうだ。二人ともこれおみやげ」

 そろって青い顔をしている二人に、カバンの中から取り出したクッキーの箱をそれぞれ手渡す。もちろん昨日の動物園で買ったものだ。ちなみに箱が動物の形で、拓実が白熊で、樹ちゃんはペンギン。どっちも特に深い意味はない。

「なにこれかわいい〜! サンキュ〜!」
「そういえば動物園に行くとか言ってたな」
「うん。杏ちゃんと」
「それは言われなくてもわかる」
「いいな〜、動物園デート……あれっ。崎、カバンにそんなの付けてたっけ?」

 樹ちゃんが目ざとく、俺のカバンにぶら下がったぬいぐるみキーホルダーを発見する。

「あははっ。ピンクのリボン付けたパンダとか、かわい過ぎて崎に似合わない!」
「たしかに。なんか女子っぽいな」
「かわいいでしょ。エヘヘッ」
「その笑い方やめろ。キモいぞ」
「あ〜、わかった。これ杏センパイとおそろいなんでしょ」
「……樹ちゃんほんと目ざといな〜」
「やっぱり! どうりで朝っぱらから機嫌いいわけだ!」
「なるほどな……」

 納得する二人に対して、おそろいではないんだけど、という言葉はなんとなく飲み込むことにした。
 俺の通学カバンでゆれる、かわいいパンダ。一方、杏ちゃんの通学カバンでは狼が同じようにゆれているのだと思うと、俺の心は非常に弾むのだった。



16.10.9

- 76 -

prev back next
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -