春は出会いの季節。
「徳丸杏です。趣味は読書。……よろしくお願いします」
最後に軽く頭を下げて、さっさと腰を下ろした。すぐに起こった拍手と、周囲からのよろしくー、という明るい声に、とりあえずやり過ごした安堵でわたしは息をつく。
半年前からレンタルビデオ店でアルバイトをしている。そこでいっしょに働いていて、何かと仲よくしてくれる大学生のエミさんに、「急に欠員出ちゃったんだけど、杏ちゃん来れない? お代は持つから」と言われ、誘われるままについてきたのだった。
雑居ビルの地下に入っているチェーンのイタリア料理店は、夕飯どきにくわえて週末とあって、とても賑わっている。そんな中で、男が四人、わたしを含めた女も四人、長テーブルを挟んで向かい合うかたちで座っている。 女は、わたし以外はエミさんの通う女子大の人たちで、男のほうは、みんな他大学の人たちらしい。
所謂合コンというものにははじめて来たけど、来てみれば絵に書いたような合コン絵図だ。
「杏ちゃん、飲み物なに頼む?」
隣に座ったエミさんに、開いたメニュー表を手渡される。グラスビールの写真に思わず目がいくけれど、慌ててソフトドリンクのメニューへ向けた。
「えっと……じゃあ、ジンジャーエールで」
「いちおうパーティープランだけど、食べたいものがあったら遠慮しないで頼んでいいからね。デザートとかさ」
「はい、ありがとうございます」
エミさんは話し方が姉と少し似ている。だからエミさんといると、姉といっしょにいる気分になる。
お姉ちゃん、元気かな。年上のカレシとは上手くやっているのだろうか。お姉ちゃんのことだからきっと上手くやっているんだろうけど。それにしても、仕事一筋だと思っていたお姉ちゃんが男と同棲だなんて、未だに信じられない。
氷がたっぷり入ったジンジャーエールを飲みながら、わたしはほんのりとしたさみしさを覚えてしまう。
先日姉が去ったばかりの家は、父も仕事で帰りが遅いし、気楽だけど、やっぱりちょっとさみしい。だから今日も普段のわたしなら来ないような賑やかしい場所にホイホイついてきてしまったのかもしれない。
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