07
…全く、泣きたいのはこっちだっていうのに。
「悪いけど、私は今あきらちゃんを信用してないの」
「…どうやったら信じてくれる?」
うるうる。子犬のような瞳。本当は彼にもうあんな真似をする気がないということくらい気付いていた。
女だろうと男だろうとあきらちゃんはあきらちゃんだ。私は彼がどんな人かちゃんと知っている。
けれど、私はにこりと微笑んで机の上に人差し指を向けた。
「とりあえず次来るまでにあのワークを全て終わらせること」
「えっ、だってあれこの間始めたばっかり…」
「じゃあもういい」
「待ってくださいやります」
「分からないところは私に聞いていいから、ちゃんと自力でね」
「うん…」
あきらちゃんはうなだれる。苦手な英語の問題を解くことは、相当な苦痛を強いられるらしい。これで少しは罰になるといいのだけど。
「それから」
「ま、まだあるの?」
「次あんなことしたら今度こそ家庭教師やめるからね」
「続けてくれるの!?」
「そっちがやめちゃ駄目って言ったんじゃない」
「う、嬉しい…良かったぁ」
また泣くのか。高校生の男の子ってそう簡単には泣かないはずでは…
疑問に思いながらも鞄の中からハンカチを取り出し、彼の顔をごしごし拭う。
「痛いよ先生。マスカラとれちゃう」
「マスカラくらいでごちゃごちゃ言わない。また塗りなおせばいいでしょ」
「!」
私の言いたいことが伝わったのか、彼は大きな目をさらにまんまるに見開き、また女装してもいいのと恐る恐る聞いてきた。
「いいのもなにも、人の趣味にとやかく言わないよ」
「…」
「したいようにすれば良いよ。それがあきらちゃんでしょ。その恰好で襲われるのはもう二度とごめんだけど」
「…っ、先生!」
「あ、こら触らないで!」
ぎゅっと痛いくらいに抱きしめられる。一応怒ってはみたがどうせ抵抗しても聞くはずはないので、仕方なくされるがまま肩の力を抜いた。
耳元ですすり泣く声がする。それがあまりにも壊れそうな音だったものだから、まあいいかと許してしまう自分。はぁ、私って甘いのかな。
…ん?
「…あきらちゃん、あの」
「ごめん、だって先生やわらかいんだもん…」
だからって押し付けるなソレを!!
ぐいぐいと彼の胸を押して引きはがしながら、やっぱり家庭教師やめようかなと検討し始める私だった。