本音と建て前
時々、どうして俺はこんなに頑なにこいつに手を出さないようにしているのだろう、と考える。
女子高生だから?お隣さん家の一人娘に手を出すのは気が引けるから?…確かにどちらも事実だ。
でも一番の理由は、
「…お前、ふざけんなよ」
「ふざけてないよ。本気だよ」
「ならなおさら性質が悪いわ!あのなぁ、これが逆の立場だったらどうだ?俺が女で、お前が男。どう見たって変質者だろ?」
「うーん、そうかなぁ…」
ただ一緒の布団で寝ただけじゃない?
きょとんとした表情でそう返されて、体中の力が抜けそうになった。
そもそもどうして俺がこんな説教をしているのかというと、答えは簡単だ。サヤが俺のいるベッドに入り込み、一緒に昼寝をしていたせいである。
目を覚ました瞬間の俺の驚きたるや…想像するのは難くないはず。
まぁ、サヤが来ている時間に眠ろうなんて考えたこちらも悪いのかもしれないが。
「お前には想像力と危機管理能力が欠けている」
無防備に男のベッドに入るなんて、襲ってくれと言っているようなものだ。
「どういう意味?」
「…あのなぁ」
そう。これこそ俺がこいつに頑なになってしまう最大の理由。
…つまり、サヤがあまりに無邪気で純粋で阿呆だから。男が頭の中で何を考えているなんてちっとも分かっていないから。
だから俺は、いつまで経ってもこいつを受け入れる決心がつかないんだ。
「前にも言っただろ。ベッドに勝手に入るな。俺に触るな。寝るなら家に帰れ」
「やだ」
「サヤ」
「なんでよ!ケチ!」
ぷうっと膨れる白い頬。こ、このクソガキ…こっちがどんな思いで我慢しているか知らないで罵るとか良い度胸してるじゃねえか。
大袈裟に溜息を吐きながらふと思う。どうして俺が、こんなに苦労しなければならないんだ?別に手を出したっていいのでは?…いやいや駄目だ。
一度この決意を曲げてしまったら、絶対に後悔する。
俺だって一端の男だ。性欲だってある。好きだって言われれば当然意識もする。でもそこで欲に流されて付き合うのは、何か違う気がするんだ。
「ロクくんのことが好きなんだもん」
「…それはもう何度も聞いた」
「好き」
「…」
「好き、大好き」
最近、こいつはおかしい。一層ひどくなってないか。前はもっと聞き分けが良かった気がする…あくまでも比較的、だが。
何かきっかけはあっただろうか、と頭の中で最近の出来事を反芻して思い当たるのは。
「お前、キスしてからおかしくないか」
かあっと目の前の顔が紅に染まる。どうやら図星のようだ。
「い、言わないでよキスとか!」
「そっちからしてきたんだろうが」
「そりゃそうだけど…」
…はぁ。もう、本当にガキ。
それなのに、俺はどうしてかこのガキに好きだと言われるのが結構、…いやなんでもない。
言葉に出すのは、苦手だ。柄じゃないし何と言っていいかも分からない。
「ん、」
だから、考えていることが伝わるように。いちいち言葉にしなくてもいいように。そっと触れるだけの口付けをする。
「…次同じことやったら、知らねーからな」
無防備だの未成年だのお隣さんだのは結局建前で、俺はもうずっと前からサヤしか、
…いや、やっぱりなんでもない。