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***
「う゛〜…」
「星野うるさい」
「いでっ」
唸りながら廊下を歩いていたら隣を歩く陽介に肩をグーで叩かれた。
少しでかめのジャージを着てそのこぶしは袖に隠れ気味のくせに、華奢に見えて力強い。地味に痛い。
「そんなイヤなの?」
ウケる、と笑いながら言う直江は体操着姿で。上のジャージを腰に巻きつけてブンブンとその袖を振り回してる。
「嫌。」
運動部のふたりにはおれのこの憂鬱な気持ちなんてわからないだろう。
教室で着替えていたら、次の体育グラウンド集合ー!と叫んだ体育委員。たしか森川くん。今日なにすんのー?って誰かに聞かれて、50mのタイム計測するから!ってこれまた教室にいるクラスメイト全体に向けて叫びながら教室をかけて出て行った彼。あれ、森石くんだっけ。
体育委員は先に行って体育教師の手伝いをするらしい。
体育だる、とちんたら着替えていたおれの気分はそんな彼の言葉を聞いてからというものより一層悪くなった。
「そんなイヤなのかあ〜」
「う゛ん〜やだ〜」
「やだね〜」
おまえは嫌じゃないだろ、と適当なこと言う直江をぺしっと叩く。
「なあその会話すごく頭弱そうなんだけど。てかほら、星野は靴履き替える!」
「うぃー…」
陽介に急かされながら教室から持ってきたグラウンド用シューズに履き替えて外へ出る。
グラウンドに向かうと結構もうクラスメイトが集まっていて、おれたちもそこに加わったところで授業開始のチャイムが鳴った。
あぶな。ちんたらしすぎてギリギリだった。
「今日は背の順じゃなくて名簿順で並んでくださーい!」
準備体操しまーす!とみんなの前で声を張るのはさっき先に教室を出て行った体育委員の彼。
「大変だね、森山くんも」
「森口な。ほら名簿順だって。お前あっちのほうだろ」
早く並べよ、とおれの肩をバシッと叩いて前の方に行ってしまった陽介。
あ、森口くんだったか。
全部はずれてたなあ、と屈伸な伸脚なんかをやって準備体操を終えると事前に森口くんが言っていたように今日は50m走のタイムを計るということを体育教師から告げられた。
名簿順にふたりずつ計るから順番が回ってくるまでは自由に他の人が走るのを見ておけとのこと。
前から欠席を抜いたふたりずつで区切って森口くんがペアを教えてくれる。おれ前の席の人とだった。
順番はまだまだ来なそうだから日陰で座って待つことにしたおれの隣に直江も座る。
「星野はさー、走んのきらいなの?」
「好きなわけないじゃん。」
ピッ!と短く吹かれた笛の音に走り出したクラスメイト。
あ、始まった。
走るのっていうかまず体育がめんどくさいし、特にこの時期の体育は一段とめんどくさくてきらい。2ヶ月くらい先にある体育祭に向けて練習やら何やら色々やらないといけないから。今日だって、リレーの順番とかを今日のタイムを参考に考えたりするんだろう。ああ始まったなって感じがして年度始めのこのタイム測定には毎年気が重くなる。
体育祭がっていうか、クラスで初めてやる行事だからかな。こんなめんどくさいと感じるのは。
「おっ、あれ陽介?」
ちょっと離れててわかりにくいけど直江が示す先、スタートラインに立つ背の低い方はたぶん直江の言う通り陽介だ。いつのまにか着ていたジャージを脱いで体操着になってる。本気かよ。
「………え、はや」
「陽介中学の頃は毎年リレー選だったし〜」
「…ああそうなんだ」
「ちなみにちなみに!俺もそうだったんだけどさ!あ、よーすけおつー!」
おまえもかよ。
とおれが言う前に、走り終わって上のジャージに袖を通しながらおれたちの元まで駆け寄って来た陽介を直江がハイテンションに迎えた。
「…ん?なに星野」
「べつに」
どさっとおれの横に座った陽介を横目で見ていたら気付かれてふいっと顔を背ける。
「陽介が速くてビックリしたんだって!」
おい余計なこと言うな直江。
「ああ、ありがと」
「…いやおれ何も言ってないし」
「俺速かったね?」
「は?うるさい萌え袖のくせに、…っうわ!」
おれが走るのいやがってることわかっててにやにやしながら言ってくる陽介にムカついて、着ているジャージのでかさを指摘したらやんのか!と飛び掛かられた。
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