14
先輩もそこは正直に、馬鹿で面白いって言ってもらっていいですよ…。
2枚目から行き詰まったおれは、その息抜きと称して煙草を吸ってしまったことへの反省から書き始めた。
ぶっちゃけ2枚3枚と書いていくうちに、書き始めた時の禁煙頑張ろうの気持ちは早くも薄れていってた。もう吸ってんのにこれじゃむりじゃんって。
1枚目で禁煙頑張るとはっきり書いたのに、それをめくった2枚目ではその意思もぐらぐらに揺らつき始めて。
道のりは険しいけど禁煙頑張る、と締めくくられた3枚目。
暗に禁煙なんて無理だと言っているようにもとれる。
「……書き直しですか?」
ずっとくすくす笑ってる先輩にいたたまれなくなって聞いてみたけど、
「ん?いやいいよ、これはこれで書いて来てくれたんだし」
すべて確認し終わったらしい先輩は持っていたペンでおれの書いた反省文の端の方に『篠塚』とサインをする。どうやらおれの出来損ないの反省文でも無事受け取ってもらうことは出来たみたいだ。
「反省文がストレスになってたみたいだしな」
「ぅ、」
「これの所為にされてまた吸われちゃ困るから。」
こんな馬鹿正直に反省文書くやつ初めて見た、と風紀委員長様が笑う。
「これ受け取って調子聞いて今日は帰すつもりだったんだけど…」
これだとなあ、と先輩は言う。頑張れそうなら様子見となってたんだろうけど、おれがこんなだからそれではダメだと思ったらしい。
あ、これはやばい、と今さら思い始めるおれ。
「…煙草ってどうしてんの」
「え?」
「ここじゃ買えないだろう」
「ああ…、たくさん持ってきて、部屋に…。なくなったら送ってもらおうかなって」
兄ちゃんが入学祝いで授けてくれた2カートンがストックとしてある。なくなっても、というかなくならなくても、多分今後たまに送られて来るだろう荷物に入れてくれるつもりなんだと思う、あの人は。
「取りに行くぞ。」
「えっ、」
それって。
立ち上がった先輩を見上げる。
風紀と書かれた腕章を左腕に留めた篠塚先輩。あ、この人風紀委員長なんだなって。それを着けた佇まいに改めて思わされた。
「ぼっしゅう…?」
おずおずと言ったおれの言葉も、没収だな。と先輩にハッキリ言い返されておれはがくりと肩を落とした。
入学祝いだと言って見逃してくれた篠塚先輩の慈悲も無下にして、結局兄ちゃんからの入学祝いも没収されてしまうことになって。おれってば祝われる価値なさすぎ…。
「煙草、沢山ってどのくらい?」
と棚をあさり丁度良い大きさの紙袋を探し始める先輩。
ほんとにストック含めて根こそぎ没収するつもりらしい。
「……そのくらいで入ると思います…」
たくさんと言ってもカートンでふたつだ。中でもいちばん大きい紙袋を手に持った篠塚先輩に、さすがにそれは大き過ぎると声をかけた。
最終的におれがチョイスした紙袋を脇に抱えた先輩が、行くぞ、と言って部屋のドアを開ける。
その背中に重い腰を上げて続くと、風紀委員会室にはさっきまではいなかった人の姿があった。他の風紀の人たちだ。
「あっ、委員長。そこにいたんですね」
「ああ悪い。先に声を掛けてたら良かったな。」
そう篠塚先輩に話しかけた人は、2年生だろうか。先輩の後ろにいるおれに気付くと、少し驚いたような感じで続ける。
「鍵開いてるのに居ないから何処に行ったのかと…。めずらしいですね」
「ん。俺今からちょっと出るから。しばらく頼む」
「あ、はい。」
篠塚先輩と同じように腕章を着けた人たち。多分2、3年だろう。篠塚先輩がいないと思っていたら、思わぬとこから出てきて驚いているのか。
スタスタ扉の方へ行ってしまう篠塚先輩を目で追ってる。ついでについて出てきたおれのことも。
あんまり顔を見られて覚えられないようにと俯きつつ最後にぺこりと頭を下げ、先に扉の外へと出てしまった篠塚先輩のあとを追っておれも風紀委員会室を出た。
おれの顔なんてぱっと見ても覚えられないかもしれないけど、一応だ。風紀委員会室で風紀委員に囲まれて堂々と歩けるおれでもない。
パタン、と手を添えて扉を静かに閉めて風紀委員会室を出たが…。
もう用が済んだわけでも、ただ帰るわけでもない。寮には戻るんだけど、そこに行くのはおれの隣、風紀委員長も一緒。
「星野、案内よろしく」
「……あい」
ワカリマシタ、と言ったがおれの気分とその脚は重い。
放課後の遠くのグラウンドからは部活をやってる生徒の声がここまで聞こえてきてる。元気かよ、と思うのはちょっと八つ当たり。
寮までは先輩も道はわかるから、案内とかはなしに並んで歩き始めた。
ここから寮まで行くのに校舎を抜ける必要があるがそこにはまだちらほらと生徒の姿があって。
なんでかその人たちはおれたちに気付くと、え!とか、うわ!とか声をあげるから何かと思っておれもびっくりした。
「ねえあそこ歩いてるの…」
「え!あれって、」
「……。」
最初はおれも、え、何ってなって風紀に連行されてるおれに同情でもしてくれてるのかと思ってたんだけど、
「わ、篠塚さん!」
「……。」
…おれたちにとか、おれにとかではなく、正しくは隣の篠塚先輩を見て言ってるのだとすぐに気付いた。
[ 15/149 ][*prev] [next#]
[目次]
[しおりを挟む]
[back to top]