13


***


「んじゃ、俺ら部活行ってくる〜」


「また来週な」


放課後、部活がある直江と陽介はバタバタしながらも、おれに一声かけて教室を出る。


運動部の1年生は大変っぽい。


おれはスポーツなんてやったことないからわかんないけど、たぶんおれにはむりだ、と2人とか他の運動部に所属したらしい人たちを見ていて思う。


「がんばれー」


ばいばーい、と手を振って2人を見送ってからおれも教室を出た。



金曜日。

やっとの思いで完成させた反省文の提出締切日だ。先輩と約束した通り、これから出しに行くところ。寮に戻るのとは逆、風紀委員会室を目指して歩く。

数日前に先輩に腕を掴まれて上った階段まで来ると、気付けば喧騒からは離れていた。


教室からそんなに距離があるわけじゃないけど、こっちは静かだなあ


階段を上がって、またもう一階上がって。
数日前にも来た扉の前。


「はぁ…」


改めて来るとまた緊張してきて、コンコン、と強めにノックをした。


「………。」


…反応がない。


帰りのホームルームを終えてすぐに来たから、先輩や他の風紀の人もまだ来てないのかも。


「…どーしよ」


ちょっとその辺で時間潰してから出直そうか…。


と、しばらく待ってみてもうんともすんとも言わない扉に後ろを振り向いた。


「あ、」


「っ!!?」


振り向いたおれの真後ろには、なぜ気が付かなかったのかというくらい近くに人が立ってて、


「、び…っ!」


っくりした…!


と、最後まで言えないくらいおれはびっくりしたのに、おれを驚かしたその人はそんなおれをおかしそうに見下ろしている。


「ごめん、開けてあげようと思って」


しれっとそう言って、動けないままでいるおれ越しに取り出した鍵を鍵穴に差し込むのは、今まさにおれが訪ねに来た篠塚先輩だ。


おれが扉の前から動かないせいで、後ろから鍵を開ける先輩とくっつく体勢になってしまっているがそんなことを気にする余裕はまだ取り戻せていない。


「…いま、一瞬しんぞうとまりました」


「まじで」


距離が近いせいでほぼ真下からジト、と見上げて訴えるおれに、止まりそうだったとかでなく?と笑う篠塚先輩。

いまのはぜったいとまってた。


おれの後ろからぐっと扉を押し開くと、おれを落ち着かせるようにポンポンと肩を叩きながら中へ入るよう促された。


ここに来るのは2度目だが、整然とした風紀委員会室の雰囲気にはやはり少しそわそわする。
おれみたいな一般生徒にとってはあまり来たくないところ。


「他のやつらもそろそろ来るんだけど、こっちで反省文確認ついでに話もあわせて聞くから。」


「え、あ…はい」


おれの背後から離れた先輩は、奥まで行くとドアを開いた。そこは少し小さめな部屋。


わ、渡すだけじゃないんかーい…。と、すぐ帰れると思っていたおれは肩を落としつつ先輩のあとに続く。


「失礼しまー、す…」


パタンとドアが閉められて、すすめられた椅子に座る。テーブルと椅子があるだけの部屋。狭めだけど大きな窓があって息苦しさはない。


向かいに座った先輩に鞄から取り出した反省文を渡す。先輩はそれを受け取って、どうやら今ここで目を通すらしい。


まじか。


おれの戸惑いをよそに反省文を読み始める先輩。


おとなしく黙って待つしかない、と思っていたら向こうから話しかけられた。


「…どうだ、1週間経つけど」


学校は、と言われてこの1週間を思い出す。


「……まあ、なんとか」


「楽しくない?」


「たの、しいとかはまだ」


まだ楽しめるほど環境にも慣れてないんだ。


読みながらもおれと話すという器用なことをする先輩は、まあそうか、と相槌をうつ。


「でも、楽しくても楽しいとは言わなそうだよな。星野」


「……篠塚先輩の中でのおれ、ひねくれてますね」


「んー?」


何か言いたそうな先輩が1枚目の原稿用紙をめくって、おれは窓の外に目を向ける。


…まさか目の前で読まれるとは思ってなかった。なんとか書き上げたけど、2枚目からのクオリティは結構ひどいと自分でも思っている。


2枚目に突入した先輩がしばらくして笑うのがわかったがおれは外を眺めたまま、というか先輩から目をそらしてる。


先輩が読んでいるのは反省文で笑う要素はないはずなんだけど、いま先輩を笑わせているのはおれの書いたそれ。


「……おもしろいですか?」


「ふ…っ、馬鹿正直だなあと思って」


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