ペルソナ4&3 | ナノ


  like an animal/前篇


「私にもお教えできることがあります」

テオは手袋をそっと外し、私の顎に手を掛ける。
金色の瞳が鋭く光り、綺麗な顔が近付いてきた―――。

***

Like an animal.

***

この間、「貴女の部屋に行きたい」と言われた。

いつもベルベットルームにいるテオが、外の世界に興味を持つのは不思議でなく、
今までも駅前や学校、神社など、色々な場所に案内した。

1つ1つに驚きを感じ、時には知ったかぶりをするテオは、
純粋な子どものようで私はどこかで安心していたのかもしれない。

ベルベットルームに足を運ぶと、
いつもイゴールさんが居て、その傍らに静かにたたずむテオ。

「生きている」ということを感じさせないテオは、主に従う為だけにそこにいるようだった。

実際のところ、それが彼の存在意義なのだろう。普通の人間の男性とは違う。整った顔、低く魅惑的な声、すらりと伸びた四肢。

全てが魅力的なものなのに、彼にとってはそれが必要でないかのよう。いつも私が訪れるのを楽しみにしていたような「振り」をするのは、一時の客人をもてなす礼儀なのだと、私はそう思い、それに甘えていた。

彼が私を好いてくれているであろうことは薄々気づいていたけれど、それは知能あるものが愛玩動物を飼うような。人間が犬や猫を可愛がるような、そんな気持ちなのだろうと思っていた。
テオドアは流浪の旅人であり、愚かな人間とは違う存在。

手の届かない高貴な存在であり、「生」を持たない無機質な存在。いつも帰り道は手を握ってくれた。その手は私の印象を裏切って、とても温かかった。その温かさに溺れて、自分の愚かさに気付かなかった。

***

「私にもお教えできることがあります」

テオは手袋をそっと外し、私の顎に手を掛ける。
金色の瞳が鋭く光り、綺麗な顔が近付いてきた。

「テ……オ…」
優しく口づけられた。そのまま時が流れる。静寂の時が流れ、名残惜しそうに唇が離れていった。銀色の髪が、窓から差し込む外界の太陽に照らされて輝いている。
しっとりと濡れた唇に、空気が触れて少し冷たく感じる。
背の高い彼が、私を見下ろしている。その瞳には少しだけ怯えている私がいた。

『もう逢えないなんてダメ!』
そう叫んだのは私自身なのに。

「ご自身がおっしゃっていることがわかっているのですか?」
「………テオは…大切な人だもの…」
ずるい答えだと思った。
テオは案の定、苦笑いを浮かべる。

「大切……ですか。……あなたの恋人よりも?」
「え…?」
「私は貴女のことなら全て知っています。いつもご一緒にいるお仲間の1人…真田様…でしたでしょうか。彼と特別な仲なのだと認識しておりますが」
少し咎めるような口調に、私はたじろいだ。

「真田先輩は…大切な人。でも…テオも大切なの…」
「それは、彼に抱く感情と私に抱く感情…『大切』の中身に差異があるとしか思えません」
「テオだって……私のことは猫のようだって思ってるんでしょ?」

いつか言われたことがある。
あなたは猫に似ている、と―――。

「そういえば、そのようなことも申しました…。しかし私が抱くこの嵐のような気持ちは、貴女には到底理解できないでしょう。私にもなんという言葉で表わしたらいいのか見当もつかない…。」

秋の終わりにふさわしくないほど、太陽が眩しく輝いている。その光で、この部屋は暖かな陽気で満たされていた。
身体が熱いのはそのせいだ。

「言葉にできないのです。そのせいで…貴女にも伝えることができない。だから…」
「!!」

身体が宙に浮いた。足が床を離れた、と思った次の瞬間、身体はベッドに沈み、長い四肢がその動きを封じた。

「テッ、テオ……!!!!」
「言葉にできないことは、身体に直接教えるのが一番かと、そう思うのですが」
噛みつくように口づけられる。体温なんて感じない無機質な存在だと思っていたことが嘘のように、熱くて荒々しい行為。

彼を退かそうと、試みるも、両手はしっかりベッドに固定されていて、全く動かない。いつもは手袋越しに感じていた彼の体温が、直接手首から流れ込んでくるようだ。

「んっ…んん……む」

とても熱い舌が、口内をくまなく走る。舌を掬いとられ、舌の裏側までなぞられて。悔しくなったから少しだけ彼の舌を噛んだ瞬間、彼の動きが止まる。それでもたっぷり口づけられてから、ようやく離れていく。
頭が朦朧とする。目がしっかり開けていられなくて、かすんだテオの姿は、少し笑っているようだった。

「抵抗されると、燃えるんですよ、私は」
彼の鼻先が、私の首筋を掠めていく。そのままどんどん下がっていく彼の顔。と、ふと彼は止まった。

「このままじゃ存分に貴女を味わえない……はて…」
しばらく見つめられる。
突然、彼は思いついたように笑った。

「ああ、これを使えばよいのですね。制服とは実に機能的にできていますね」
彼は私の制服の胸元に結ばれているリボンに歯を立て、獣のように、ほどいた。そして、器用に私の手首をひとまとめにして、頭上のベッドの格子へとくくりつけた。

手加減なしに繋がれた手首が少し痛い。動かせる余裕も全然ない。

「これで、貴女は私の想いを全身で受け止められます」
「テオ……やだよ…こんなの……」
「真田様への背徳感ですか?」
「……信じてたのに…テオ……」
「私も……貴女が私を選ぶと信じております。なんなら、声が彼の部屋まで届くくらい、激しくしましょう?」
言いながらテオは制服を脱がしていく。
私の両手が繋がれていることで完全に脱がせることができないと、いま気付いたようだ。

「私としたことが……あまりに焦って失敗しました……まぁ、これもとても興奮するので…」
独り言を呟きながら、今度はスカートを捲り上げる。

「嗚呼、この部屋にあなたの匂いが広がっていくようですね。あなたの匂いに包まれるなんて…夢にまで見たことです」
「やめて……!!!」
「今更ですか?」
下着に指をひっかけながら、彼は楽しそうに呟く。
そして…

「御冗談を」
取り去った下着を放り投げた。

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