61
私の病室に入ってきたのは、黒っぽい茶髪の綺麗な女性と、金髪の男性。
それから、遅れて、黒髪のラテン系っぽい男性が入ってきた。
…あれ、私って東洋系の顔立ちだと思っていたんだけど。
久しぶりも、初めましても似たようなもの
「ヒサメ!」
女性が半泣きで私の名前を呼んだ。
…あれ、お医者さまからは連絡を受けていないのだろうか。
先ほど、私の病室に来て、話をしたのだけれど。
「あの、ね…、」
年下にするように、首を傾げながら彼女を見る。
そっと、頬に手を当てて、じっと目をあわせた。
「私、記憶がないの。どうやっても、昨日までのことが思い出せなくて。」
まるで、真っ白に塗りつぶされたみたいに、何も。
そう言って、ごめんね、と彼女の頬を撫でる。
目の前の女性の瞳が緩んで、ぽろぽろと、こぼれ落ちた。
その涙を親指で拭って、泣かないで、と告げる。
「でも、何があったのか、教えてくれると嬉しいな。」
言えば彼女は、じゃぁ、皆が来るまでに、あなたの人生を教えるね、と笑った。
ふと、黒髪の少女が、重なって見えた気がした。
「それで髪が白いのね、実は私って、すごい年寄りなのかと思ってたの。」
違ったのね、と笑えば、目の前の三人は脱力したように首を振る。
言いたいことはわかる。
私を庇ってなくなったという家族。
きっと、素敵な人たちで、忘れたくないものだったのかもしれない。
でも、本当にそうなら、いつか、思い出すこともできるだろう。
覚えていなければ私が無くなってしまう訳でもないし、その彼らとの生活は私の体が覚えているはずだ。
そう告げれば、3人はぽかんとしてから、笑った。
そして、ふと気がついた。
「私、27歳なのよね…。」
「ええ、私より2歳年上だもの。」
「…東洋系は童顔とは言うけれど、ジルが大人っぽすぎるのかしら?」