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「もう来たの?」
「そうね、もうついちゃったみたい。」
肩をすくめて答えるが、めっちゃ怖ぇええええ。
感情を写さない瞳って言うのがこれほど怖いとは…。
とりあえず、逃げたい。
私にとって、幼女は全て正義なのかもしれない
ていうか、もっと警備とか付けとけよ、何でこんなあっさり来られちゃうの?!
なんて、無駄な八つ当たりをしたいくらいにはテンパっている。
ふぅ、とゆっくり深呼吸をして、部屋の中を見渡した。
機械ばかりの無機質な部屋で、合成音声の冷たい響きが空気を震わせる。
「何故、戦うの?」
「…何でだと思う?」
「ヒーローになりたいの?」
「いいや、」
静かに首を左右に振る。
不快そうに眉を寄せたレッド・クイーンに、機械にも感情があるのか、と笑った。
じゃぁ、お金?名誉?と続けざまに言われる言葉に肩をすくめる。
不満そうに私を睨みつけるホログラムは、思い通りにいかず、拗ねている少女そのものだった。
「お金や名誉のために命は捨てられないよ。」
「なら、何故戦うの?」
ジジ、とブレながらも、私を見つめ続ける。
その顔に苦笑してから、敵だということを忘れてしまいそうな自分を叱咤した。
『大切な、存在のため…かな。』
機械が動く音だけで、彼女は動くことはない。
何かを喋ることもなければ、ただただ、私を見つめていた。
感情を写さないその瞳に、覚悟を決めた。
「好きな男には、生きていてもらいたいものだろう?」
「そう、」
静かな声色で告げたソレは恐怖を覚えそうな程機械的な動きで、首を動かす。
思わず、口から、ひぃっと小さく漏れたのは内緒にさせてもらいたい。
「なら、私を破壊しなさい。」
告げた彼女は、感情などないはずなのに、辛そうに見えた。
ホログラムの彼女の頭の上に、そっと、手を乗せる。
「ああ、私は君を殺しにきたんだから。」
小さな笑顔を最後に、私は無表情のまま銃の引き金を引いた。