旦那 | ナノ



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「勉強、教えてください」
「私、そのために来てるからね?」
「流石氷雨…こうも簡単に流川をやる気にさせるなんて」
「ありがと、じゃ、リョーちゃんは彩子に見捨てられない程度に頑張んなさいね、これから先、私は絶対、教えないから」
「なっ?!」
「毎回電話するこっちの身にもなってくれる?頼まれたから始めたんだけどさ、多分自分で頼んだって記憶もなくなってんでしょ?」
「うっ…そうだった」

全く、と呆れた目で見つめてやって、すぐに視線を富中エースへと戻す。
こちらを見つめてくる瞳にごめんね、と告げてから、その前に座った。
開かれているのは英語で、ニコリ、と笑って唇から言葉を発する、が、それは日本語ではない。

「?!」
「ふふ、これでも私の母親の活動拠点アメリカなの」

ハッとしたように顔を上げた富中エースの顔をまっすぐ見た。
それから期待したような顔で目だけで訴えてくるのがわかり、つい苦笑する。

「あー…長期休暇、一緒に行ってみる?その間練習できないから三年生になってからになると思うけど」
「…お願いします」
「そうだ、テストの結果が良ければ、にしようか」

ご褒美があった方が頑張りやすいでしょう?
何か言いたげな顔をした彼を黙殺して、問題に向かわせる。
しばらく勝手に進ませよう、かと思ったのだが、どうしてだろうか全然と言っていいほどに手が動いていない。
ため息をつきそうになるのを必死にこらえて、説明を開始する。
私が書いた文字をじっと見つめながら、頭に叩き込もうとしているらしい富中エースにこれからは頑張ってくれるだろう、と期待して。
一通り教えて、ノリさんが作ってくれていたテストを渡す。
スラスラと、とはいかないものの順調に解いて行くのを確認して、ホッとする。
これなら教え方悪くて理解できなかったから補習に落ちたとか言われずに済むだろう。
全部解けたのを確認してその頭をよしよしと撫でた。

「いい感じ。良く頑張りました」
「うっす…ありがとう、ございます」

椅子から立ち上がって時計を見上げる。
うーん、二人を呼べば帰れる時間だけど…どうしようかなぁ?

「どうした?」
「この時間なら、宗くんと彰くんがロードワークに出る前なので、頼めばついでに迎えに来てくれるかなーと」
「えっ、氷雨帰るの?!」

彩子の悲鳴混じりの声にえっと困惑気味に返す。
むしろここに泊まるっていうのなかなか勇気の要ることだと思うんですよね。
別に知り合いが多いから気にしなくてもいいのかもしれないけれど、一応別の学校だからね。
ライバル校って言えるから。

「いいじゃない、今日ぐらい」
「うーん、まあ、彩子と居られる時間も減ってるし…そうしようかな」

ちょっと電話借りますね。
ノリさんに許可を取ってから、宗くんの部屋、彰くんの部屋、自宅の順番で電話番号をプッシュする。
2コールで自宅の電話が通じた時に本当に目が死んだ。
鼓膜が破れるんじゃないかというような大音量で、今どこ!?とか叫ばれた。

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