089
いつの間にか隣に帰ってきていた紳先輩が、悩んでいる私に気がついたのか、首を傾げる。
ハッと気がついて紳先輩におかえりなさい、と告げてから、コートに視線を戻す。
「面白い子がいるなぁ、と思いまして」
「…面白い?」
「ええ、私にはマネできないタイプです、清田くんと一緒で」
肩を竦めながら、あの赤髪の彼です、と続けた。
まだ清田くんの方がマネできそうですけど、私の言葉に驚いたようにしながら、楽しそうに笑う紳先輩。
楽しみだな、と好戦的な瞳をする紳先輩に一瞬固まってから、肯定を返す。
その後、まさかの脳天ダンクが炸裂するとは思わなかったのだけれど。
確かに面白い、と大笑いしている紳先輩にどうしようかと悩んでから、放置しようと決めた。
試合が終わり、カメラを片付けて、陵南がいた所を見る。
が、どうやら帰ってしまったらしい。
まあ、いいか。
「さて、俺たちも帰るか」
「はい」
こくん、と一度頷いて、また三脚を持ってもらう。
申し訳ないと思いながらも、ありがとうございます、とお礼を言うのに留めておいた。
と、コートから彩子が手を振っているのが見えて、軽く振り返す。
「氷雨?」
「あ、今行きます!」
彩子から視線を外して、紳先輩を追う。
階段を下りた先で、清田くんと宗くんが話し込んでいる。
どうやら、後半のラスト4分だけ見ていたらしい。
「あ、俺持ちますよ!」
紳先輩が三脚を持っていることに気がついたらしい清田くんが声をかける。
驚いたような顔をした紳先輩はすまないな、と三脚を渡した。
「清田くん、ごめんね、ありがとう」
「え?!い、いえ、俺はその、」
後輩としてごにょごにょ、後半は何を言っていたか聞こえなかったが、多分先輩にお礼を言われて照れたのだろう。
可愛いなあ、と思いながら、その頭に手を伸ばす。
なんか、年下らしい年下が、最近身近にいない気がして、清田くんがすごく可愛く見える。
…そうなんだよね、実際、精神的に考えれば、紳先輩とか…年下っていうか、なんていうか。
洋平くんは可愛いって言うより、頼りになる年下だし。
「あ、ねえ、清田くん、ノブくんって呼んでもいい?」
「えっ、ええっ?!」
「駄目ならいいんだけど、」
こう、可愛がりたいと言うか。
なんて言う邪心が透けて見えたのか、一瞬戸惑ったようにする彼だが、笑顔で頷いてくれた。
うん、やっぱり可愛い。