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それから、彼女はゆったりと微笑んで、さあ、お座りになって、と椅子を勧めてくれた。
あ、はい、とよくわからない返事をしながら、軽く頭を下げて椅子に座って、一度息を吐く。
面接されてる気がする…。
昔から面接って嫌いなんだよなぁ、なんて頭のどこかで考えながら、正面に座った仙道夫人を見る。
「氷雨さんのご家族は何処に?」
「父はドイツに、母と兄はいまアメリカです。」
「まあ、海外にいらっしゃるの?お仕事かしら?」
「はい、父は金融関係の仕事を、母はアーティストとして、兄は大学に通うため、アメリカに。」
そうなの、と瞬いてから、にこり、笑う。
それから、一息おいて、口元で両手をあわせた。
「確か、白雲家、とおっしました?」
「あ、はい。」
ふと、面接的な空気が一気に軽くなる。
驚いて、その表情を見ると、先ほどよりも緩やかな表情で私を見つめていた。
思わず、首を傾げると、嬉しそうに笑う彰くんのお母様。
「これからも、彰さんをよろしくお願いしますね、」
「あ、はい、こちらこそ。」
なんだかよくわからないままコクリと頷き返す。
「母上、氷雨さんは友人ですよ。」
「…あら、彰さんは意外に鈍感なのね、あの人に似て。」
「鈍感…ですか?」
「ええ、本当に嫌になる位に。」
肩をすくめた彼女は大分フランクな空気になっている。
ぽかんとだらしなく開きそうになる口を抑えて、数回瞬いた。
そんな私の様子にか、それとも理解できないという顔をしている彰くんにか、くすくすと笑う彼女。
さぁ、食事の支度をしましょう?と私に言葉をかけて、共に台所に入る。
…あれ?友達のお母さんとキッチンに立つって、可笑しくない?
と気がついたのは、料理が完成する間際のことだった。
「お上手なのね、」
「そんな、」
「ねえ、彰さんもそう思うわよね?」
「氷雨さんには、いつもお世話になっていますから。」
「そうじゃありませんわ、」
困ったように眉を下げた彼女に、ああ、親子、と思ったのはきっと私だけではない。
そして、何故か気に入られたらしい私は、次の日も食事に誘われた。
…ホントに、誘われた。
一緒に作る、とかじゃなくて、奢りで、回らないお寿司屋さんに行きました。
色々な意味で、目がくらんだ。
それから、お見送りにも行きました。
楽しそうに、良いお土産話が出来ました、と目を細める仙道母にそれはよかったです、とだけ返す。
「氷雨さん、華道に興味はありますか?」
「え、あ…はい。」
「まあ、なら、今度家にいらっしゃい、ね?」
こくり頷いて、親子の別れを見る。
今日も和服の彰くんはその身長も相まって、かなり注目されている。
…私も和服を着ているなんて、そんなこと、あるけど。
「彰さん、早く気がつかなくては、大変なことになりますからね。」
「母上、お気をつけてお帰りください。」
「話を聞いてくれないのもあの人と一緒ですね。」
そういい残して去って行った仙道夫人を見送って、思わず二人でため息を吐いたのは言うまでもない。
「さて、帰ろうか。」
「…そうだね。」