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隣人の母
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隣人の母

春休みが終わりに近づいたある日。
4日間、お隣りの彰くんのところに彼のお母さんが来ることになった。
しゅん、と頭を下げた彰くんに何故?と思いながら、話を聞く。

「どうしたの、」
「その、俺の母さんが、…何でもない。」
「う、ん?彰くんがいいならいいんだけど…困ったらいいなよ?」
「…。」

無言でこくりと頷く彼は覇気がなく、思わず首を傾げる。
どうしたんだろ?と思いながらも、別に無理して話してもらう程のことじゃなさそうだと、見当をつける。
とりあえず、彰くんの好物を作って、元気を出してもらおうかな。
なんて思ってたのが数日前。
昨日、バスケ部の見学に行って、マネージャーになることが確定した後、彰くんから電話があった。
なんでわざわざ電話なんかしてきたんだろう、と思ったら、明日仙道母が私に会いたいそうで。
思わず固まって、聞き返したが、内容は変わらなかった。

「それで、一緒に料理作って欲しいんだけど。」
「うん、良いけど?」
「そのとき、俺多分、別人だけど、俺だから。」
「う…ん?わかった、とりあえず、ご飯作れる準備しておけばいいんだよね?」

聞けば、うん、と覇気のない返事が返ってくる。
本当にどうした、と思いながら、献立は?と聞けば、一手間掛かりそうな和食のオンパレード。
一応レシピ捜しておこう、とメモしてから、大丈夫だよ、と声をかけて、電話を切る。
俺じゃないってどういうことなんだろ、と思ったのは、翌日、解決された。

「…あ…きら、くん?」

私の目の前には髪の毛がツンツンではない彼がいた。
意外に長い、首許に掛かった部分を紐で結ってあり、前髪が左目を隠すように綺麗に流れている。
服装も、いつものTシャツではなく、和服で。
静かに歩く彼の姿は、普段からまるで想像ができないものだった。
ふと、目を細めて、彼は1つ頷く。
それから、私にだけ聞こえるよう、小さな声で囁いた。

「氷雨ちゃん、これから、ホントに俺別人だから。」

真剣な目で言ってきた彼に、こくり、頷いて、彼の家の扉から出てきた彼のお母様を視界に入れる。
…すげー美人。
彰くんに遺伝したであろう、真っ黒の髪は綺麗に結い上げられていて、着物がよく似合っている。
こう見ると、彰くんはお母さん似のようだ。
たれ目たれ眉の上品な顔立ちに、しゃんとした立ち居姿。
大和撫子…!

「貴女が、氷雨さん?」

涼やかな、心地よい声と、ゆっくりと傾げられる首。
コクリ、と1つ頷いて、声を発する。

「はい、彰くんにはいつもお世話になっております。」
「まあ、彰さんに聞いていた通りの、しっかりした方ね。」

ふふ、と笑う彼女に、さあ、いらして?と言われ、彰くんの部屋に入る。
何度も入ったことがあるはずなのだが、いつもと違う印象を受けるのは、お母様と、花、だろう。

「お花…?」
「あら、気付かれました?それ、彰さんが活けたんです。」

貴女に見て頂きたいと、一生懸命でしたの。
と口元に手をやる彼女は、嬉しそうにも楽しそうにも見えた。
彰くんが困ったような顔をして、母上、と声を上げる。
一瞬の後、吹き出しそうになったが、堪え切った私を誰か褒めてくれないだろうか。

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