胸うさ | ナノ



おまけ
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お茶をする日。
青年は胸を弾ませて、待ち合わせ場所に立つ。
待ち合わせの時間5分前に彼女はいつもと同じように現れた。
にっこりと、普段と変わらない笑みを浮かべて、カフェに入る。

「それで、相談って?」

飲み物が二人の前に置かれてから、彼女は少し目を伏せながら問う。
グラスの中をストローで混ぜ、グラスの中の氷がからりと音を立てた。
青年は、自分であることを、彼女であることを隠し、恋愛相談を持ちかける。
その言葉が紡がれる間は、ずっとその瞳を真っ直ぐに見つめる彼女。
相談内容が一通り話されると、真剣な表情を少しだけ緩める。
そっか、大変なんだね、と同調するように告げた彼女は、一拍おいて首を傾げた。
それから、彼女の予想する相手と彼の共通点を告げながら、アドバイスを始める。
聞きながら、違和感に気がつき始める青年。
最終的に、彼女はマッチさんは、と言い始める。
そこで初めて誤解されていることに気がついた青年。
慌ててその誤解を解こうとするが、生憎とその前に、その場にマッチが現れる。

「氷雨、」
「マッチさん?どうされました?」
「それくらいにしてやれ、行くぞ」
「え、あ、何処にです?」
「仕事だ」

言い切ったマッチに、はい!と慌てたように立ち上がる氷雨。
彼女は伝票を持って支払いに走る。
青年は固まって、ただマッチを見た。
くつり、喉を鳴らすよう笑った男は青年に視線を向ける。

「悪いな」

優越の混じった表情で笑うマッチに青年は悟った。
ああ、これは、勝てない、と。
だがそれを素直に認められる程、彼はまだ成長していなかった。
青い、とも、可能性がある、とも、言えるだろう。
悔しそうな顔だが、諦めていないその表情にマッチは笑う。
その青年の頭にぽん、と大きな手を乗せた。

「追いかけて来い」
「マッチさん、準備出来ました!」

タイミングよく響いた彼女の声に、マッチは今行く、と返して出口に向かう。
二人で並ぶ背中を睨みつけるようにしてから、青年は深いため息を吐いた。

*********
あとがき
壱萬打企画でリクエストしてくださった匿名さまに。


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