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差し出されたドレスを身に着ける。
靴とネックレス、バッグも渡されて、その後、髪型を弄られて、元いた場所に連れてこられる。
いや、うん、化粧しないとアレだと思うんだけど。
ほら、色々とさ、残念だと思うの。
「マッチさん…?」
私をじっと見つめて、何か考え込んだ顔をするマッチさんに問いかける。
マッチさんはすぐに私と視線をあわせてくれて、少しだけ微笑んだ。
「よく似合ってる」
そう言ったマッチさんは、だが、と続けて店員さんに話しかける。
時々聞こえる声からすると、ドレスの色を変えろ、と言うことらしい。
頷いた店員さんが、私にキリッとした顔を向けてから、どうぞ、と手を差し出してくれる。
確かにヒールで歩きにくいんだよね、と思いながらその女性の手をとった。
先ほどの部屋に連れて行かれて、別のドレスに着替えさせられる。
…着た感じ、何となく、さっきのよりもその、肌触りが、ね?
怖いなぁ、と思いながらも何も言わずにいたら、化粧までされ、髪型も少し変えられた。
装飾品はほとんど変わらなかったものの、なんだか、完成系になっている気がするのだが。
もう一度戻れば、そこには、髪を下ろして服装が燕尾服になっているマッチさんが。
…くそイケメンである。
「氷雨、綺麗だ」
甘く笑みながらの言葉を、一拍おいて理解する。
顔が赤くなったのを俯きながら隠して、視線を彷徨わせた。
ちらり、と覗き見ると、彼は先ほどの表情のままで私をじっと見ている。
「えっと、マッチさん、それで…その、どうしてこんなことに?」
格好いいとか、返そうかと思ったが、それ以上に現状把握の方が重要だろう。
そう思って口を開けば、マッチさんはバツが悪そうに視線を逸らす。
それから、すまねぇ、と一言口にして、私の目をじっと見つめた。
「これから、組長関連のパーティーがある」
「…これから、は、これからすぐ、の意味…ですよね?多分」
これから先いつか、ではないだろう。
そう思って聞くと、こくりと頷いたマッチさん。
ああ、ルイの言葉は本当だったんだと、ひくりと口角を引き攣らせた。
本当に…良かった、マナー(とダンス)習っておいて。
ものによっては踊らないパーティーもある…よね?多分?
とはいえ、不安だと徐々に眉が下がる。
「大丈夫だ。俺がいるだろ?」
私の気持ちを読み取ったのか、ゆるゆると笑むマッチさん。
はい、と頷いて、ピアスに触れる。
少しだけ安心して、口角を持ち上げながら、マッチさんの手をとった。
いつもと違う服装ではあったけれど、いつも通りに安心出来る。
「そうやって笑ってろ」
「…はい」
擽ったい気持ちになりながら笑う。
パーティーも悪いものではないのかもしれない、と少しだけ思った。
…だが、言ったパーティでは、飲み物も食べ物も食べられず。
更には女性たちの香水が強すぎて、植物由来の香水も多くて、気持ちが悪くなった。
ダンスはマッチさんと私が一曲踊ったことが原因で、マッチさんに女性が群がる事態に陥る。
その時、隣にいた私は、自分の許容範囲を超えた匂いに気を失った。
目が覚めた私は、もう二度とパーティーになど行かないと心に誓う。
そう、たとえ、マッチさんにお願いされたとしても…!
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あとがき
壱萬打企画で匿名さまのリクエストです。