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誤摩化し方がわかりやすい彼女は、情けない顔をしてマッチを見上げる。
その髪を優しく撫でて、ティーカップに手を伸ばした彼は、ヤクザとは思えない優雅な動きで紅茶を飲んだ。
ふ、と息をついて、上手いな、と呟く。
その言葉に目を輝かせて、マッチを見上げる氷雨。
妙齢の女性とも思えぬ仕草だが、その姿がどこか似合っている。
彼は目を細めて小さく笑んで、一度だけ撫でた。
「可愛いな、」
「?!」
そんなに驚くようなことでもないはずだが、目を白黒とさせる氷雨。
その様子に忍び笑いを零して、彼女の頭の上に顎を置く。
彼女が持っていた紅茶を零さないように両腕を回した。
「マッチさんはズルいです。」
「…は?」
「ズルいです、すっごくズルいです。」
む、とした声で続ける彼女は照れ隠しの表情で、自分の手の中の紅茶を見つめていた。
それから静かに続ける。
「マッチさんに勝てる気がしません。」
「そうか…?」
「そうですよ。」
紅茶を一口飲んで、腕をのばしてテーブルにカップをおく。
それから、膨れっ面のまま、マッチの手を叩いた。
ぺちぺちと軽い音を立てるそれは、ほとんど痛みはないのだろう。
叩かれる方は苦笑したまま、自由にさせている。
「むぅ…そういう余裕な感じが、」
勝てない気がする。と続けようとしたのだろうが、ぎゅうと抱きしめられたことで息が詰まった氷雨。
ごほ、と咽せながら、睨みつけるように見あげる彼女に小さく笑んで、咽せない程度に力を込める。
それから、耳元に口を寄せて囁いた。
「全然余裕じゃねーよ。」
「っ、」
ついでと言わんばかりに首許に口付けて、横目で彼女を伺う。
顔を真っ赤に染めた氷雨は、目を見開いて、息を止めていた。
数秒の間の後、目を逸らす。
「ばか。」
「かもな。」
可愛らしい反応にくく、と喉を鳴らして笑い、もう一度、今度は耳に口付けたマッチ。
氷雨はもう知らないとでも言うように、彼の腕の中で丸まったのだった。