胸うさ | ナノ



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「ばか。」
「悪かったって。」

困ったように言いながら、私を抱き上げるマッチさん。
近くに感じる体温に、安心感と不安が同時に押し寄せてきた。
ぎゅぅ、としがみついて、自分の中のどうしようもない不安を追い出そうとする。
私の様子が可笑しいことに気がついたのか、どうかしたのか?と囁く声。
その言葉に首を振って、ちょっと疲れただけ、と返した。
首許に頭をすりつけて、マッチさんの香りを肺一杯に息を吸い込んだ。

「も、大丈夫。」
「そうか?」

こくり、頷いて降ろしてもらう。
…視線が痛い、特に、トリコさんの。

「氷雨、」
「と、トリコ、さん?」

伺うように、怯えながらその人を見上げる。
ずい、と無くなっていない方の手が差し出された。
…何フラグ?これ、何フラグ??
腕寄越せってこと?それとも金払え?どういうことですか。
思わず首を傾げると、ニッと笑って、私の手を取る。
そのまま引っ張られて、後ろ向きで歩くはめになった。

「ちょ、トリコさん?!」
「折角だ、楽しもうぜ!」
「え、いや、その、そうじゃなくて、」

ずるずると引っ張られて思わず、後ろにいるマッチさんとさうと緑のリ…鉄平さんと滝丸くんを見る。
唖然としたような彼らの表情を見て、あ、やっぱりトリコさん唐突だったよね、と考えた。
大きな手に包まれた私の手は抜けそうになく、というか、とりあえず、右手を離して欲しい。
せめて繋ぐなら左手でお願いしたいんですが、後ろ向きで歩かされるってどんな鬼畜プレイだよ。

「あの、トリコさん…?」
「んあ、悪ぃ、歩きにくかったよな!」

いいながら、反対の手を掴まれた。
あれ、これ、ん?
もしかして、もしかしなくてもデート形式な手の繋ぎ方じゃね?!
どうした、ご乱心か?
…いや、私といることでマッチさんと話しやすくするためか?
中々計算高いことをする…のかな?
まぁ、私がいれば、照れることなく話が進むと思うけど、折をみて私が抜ければいいんだよね、多分。
なんて思っていたのだが、マッチさんと話すどころか、マッチさんが近づくと私を引っ張って色々行く始末。
針治療に温泉鮫とかぐいぐい引っ張られた。
いや、別にいいんだけどさ、どんだけ緊張しいなんだろうか。
なんて思いながらも、まあ、楽しいからいいか、と単純な思考に戻す。

「ここはなんだ…鉄平」

トリコさんの問いに鉄平さんが答えた。
それに快活に笑って、サニーに教えてやるか!というトリコさん。
…え?サニーって確か、晴ちゃんと話してて出てきた四天王だよね。
よく覚えてないんだよねぇ…私。
ほら、10年ってかなり大きいものでねぇ…何となくはわかるんだけど。
なんて思っていたら、すぐ右からざばぁ、という音が聞こえた。
いやな予感で血の気が引いた。

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