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「どうした?」
楽しそうな音を含んだそれに思わず顔を上げそうになるが、思いとどまる。
しかし、その反応だけで満足したのか楽しそうに頭上で笑う声が聞こえた。
彼にだけ聞こえるように呟く。
「マッチさんの馬鹿、意地悪。」
「悪かったって、機嫌なおせ。」
ぎゅーと抱きしめられ、ぽんぽんと頭を撫でられる。
うー…と唸ってから気がついた。
此処には、いつものメンバー以外の人が居る…!
いつものメンバーならまあいいんだ、もう何か慣れた。
いや、慣れるべきじゃないとは思ってるんだけど、絆されるってこういうことかって…。
じゃなくて、小松さん、滝丸少年、それからマッチさんに片想い中のトリコさんがいるんだよ。
こ、殺される。
トリコさんに殺される、いや、肉体的には多分私のが強いけど。
無理、勝てる気がしない。
助けを求めるように、更にギュゥウとマッチさんに抱きつく。
会話していたマッチさんは気がついたように耳元で囁いてきた。
「どうした?」
「他の人、いたのに、」
「ああ、今気がついたのか。」
確信してたのか、こいつ。
え、何、愉快犯?いや、犯罪者じゃないけど。
いや、犯罪者か?色んな意味で、だって、ヤクザだし。
なんて混乱しながらも、顔は絶対にあげない。
彼らの顔は見れない、見れる訳がない。
「……寝る。」
「分かった。」
仕方ないな、と言うような溜息が聞こえて、誰の所為だと心で叫んだ。
軽々と抱き上げられて、私は彼の首にかじりつく。
マッチさんはさっきの話の続きなのか、小松さんに向かっていった。
「親とはぐれた子ペンギンか…面倒見てやれよ。」
それからトリコさんと会話して、そのままテントに入ってくれる。
当たり前のように同じ寝袋に入った。
…うん、可笑しいよね。
そろそろマッチさん離れしなきゃだよなぁ…なんて思う。
けど、いつもマッチさんの優しさに甘えてこの状況。
くそう、弱い自分が恨めしい。
暖かいマッチさんに擦り寄りながら、避けられないだろう戦いに想いを馳せる。
片手で抱き寄せるようにしてくれるマッチさんの額に唇を落としてから、目を閉じた。
(「っ、マッチさんと氷雨さんって、恋人なんですか?」)
(「いや、付き合ってはいねぇな。」)
(「氷雨が断ってるんだよ、なんか理由があるらしいが…。」)
(「ま、憎からず想ってるのは事実だろ。」)