胸うさ | ナノ



アイスヘル一泊

しおりを挟む


私たちは、地面を掘ったところに皆でテントを張った。
ちなみにこれはトリコさんが掘ってくれたのだ。
うん、いい人なようだ。
…大きいから結構、怖いけど。
でも、ほら、マッチさんも最初すごい怖かったけど、いい人だったし。
それにトリコさん、ラム守ってくれたし…。

「トリコさん、トリコさん。」
「ん?何だ?」
「見張り、休憩してください、その間は、さうが見張っててくれるので。」

私の胸元から顔を出したさうを上に投げる。
と、飛びながら戦闘モードの状態に変わるさう。
あまりの顔の凶悪ぶりにトリコさんの頬が引きつった。
あ、やっぱどん引き?
なんて思いながら、さうによろしくねーと叫ぶ。
サムズアップ。
……お前か?あの3人にサムズアップを流行らせたのは…?
なんて思っていれば、トリコさんをサラッと突き落とす。
途中で体制を立て直しちゃんと地面に立てるのはすごいね。

「氷雨?どうした?」
「マッチさん。さうに見張りしてもらおうと上げたところです。」
「ああ、なるほどな。」
「多分、猛獣もさうがいれば近づかないですし、さうは耳が長いですから。」

いつもそれだな、と笑うマッチさんと対照的に不安そうなトリコさん。
訝しげに私に聞く。

「耳が?」
「ウサギさんですから。耳がいいんです。危険が近づけば教えてくれますから、安心して休んでください。」

にこ、と安心させるように笑う。
ネルグの小さい子に人気の笑顔だ。
トリコさんは何度か瞬いてから、そうか、と苦笑した。
そういや、名前は?とトリコさんに聞かれ、そういえば名乗ってないなと気がつく。

「氷雨と申します。」
「氷雨、か。よろしくな!」
「はい、よろしくお願い致します。」

手を差し出され、軽く触れようとした瞬間、後ろに引かれる。
あれ?と思えば、ぼすん、とマッチさんの胸板に頭が当たった。
マッチさんの顔を見上げると、片手で顔を覆われる。

「昼間は部下を助けてくれてありがとよ。」

そのまま続ける。
礼と言えるものではないが、さうとは俺が変わる、休んでいてくれ。
有無を言わさぬ、とはこのことなのだろうか、と思うくらいに力のある声。
トリコさんは律儀なヤクザだな、と口を歪ませる。
ちなみに、見えているのはマッチさんの指の間からだ。

「名はマッチだ。よろしくな。」
「ああ、お互い力を合わせて行こう…!?」

握手しているのだろう、が、ついに私は抱き込まれたため何がなんだかわからない。
つーか何でこの体制だし?
ぎゅうぎゅう抱きしめられていると、照れるので、やめて頂きたい。
なんて言っても聞いてくれないのが、このマッチさんですよね。
なのに強く言えない自分が憎い。
いや、でも、仕方ないって思ってくれたりしませんか…。
だって、此方来てからずっと人と関わっていなくて、しかも元の世界でも二次元の住人に悶えてて。
そんな私に優しくしてくれる、強面だけど優しいイケメンがいたら、誰だってこうなるでしょ?
むしろ、お願いだから、そうなって。
しかも若干惹かれてる自分もいるから始末に負えないし。
うぅ。
思わず、ぎゅ、とマッチさんのスーツの裾を引く。

[次へ]

[ back to menu ][ back to main ]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -