正義 | ナノ



072
しおりを挟む


私が、デスマスクさんの声に吃驚したのは、純粋に予想外に近かったからで、別に彼が悪い訳ではない。
それに、火傷ぐらい料理をしていればするだろうし。
別に取り立てて問題だとは思わない…のだが。
何をそんなに、怒っているのだろうか。
そう考えながら、ふと、肩から動かされた手によって、現状に気がつく。
…髪を撫でられている、誰に?シュラさんに。
片手が腰に回されている…誰の手?シュラさんの手だ。
服越しに感じているのは、シュラさんの体温で間違いない。
つまりどういう状態?…抱きしめられてる…?

「〜〜〜〜〜っ!!?」
「氷雨?!どうしたの?手が痛む?」

不安そうな表情を浮かべたディーテさんが顔を近づけて来る。
近い近い、美形が近いって。
抱きしめられている状態だと自覚した所為で真っ赤になった顔を見られる。
それが恥ずかしくて、更に赤くなる頬。

「…えっと、その…放してもらっても、いいですか?」

ふと、気がついたように、すまない、と照れもせず言ったシュラさんは私を放してくれる。
が、目が合うと、ふい、と逸らされる。
…え、そんな目も当てられない顔してる?
なんて思っていると、吹きこぼれる音が聞こえる。

「っ?!弱火っ、」

慌てて、駆け寄って、火を弱めた。
水から出した手が痛むが、少し眉をしかめる程度だ、と判断し、料理を続けようとする。
が、止められた。
あっさりと、手を掴まれて、慌てたように水道に引っ張られた。
…えっと…ダメってことですかね、と私の手を引いたシュラさんを見上げる。

「跡が残ったらどうする!?」
「いや、多分、これは確実に残ると思うので…」

ディーテさんの顔が比喩でもなんでもなく、鬼のような形相になった。
悲鳴を飲み込んで、勇気を振り絞る。
あの、と声をかけると、少しだけ落ち着いた表情になったディーテさんがなんだい?と首を傾げた。

「ここに火傷があったからと言って、別に嫁に行けなくなるとか、私自身がどうにかなる、という訳じゃないので、」
「…どうにかなる、とは?」
「えっと、ショックを受けたり、泣いたり、ってことはないんです。だから、気にしないで下さい」

[前へ]/[次へ]

[ back to menu ][ back to main ]
[ 番外編に戻る ][ 携帯用一覧へ ]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -