正義 | ナノ



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ディーテたちに関しては、私を甘やかすことが生きがいみたいな状況になってるところがあるから、好きにさせておく方がいいとは思うけど…。
お世話になってることも多いし、歓迎してもらうっていうのもなぁ。
やっぱり気分的には何か用意したいな…そんなに時間がないけど、それは仕方ない。
そうすると、クッキー的なものなら、すぐに用意できるだろうか。
物は…用意すること自体も無理だし、そもそも何かを残すようなことはやめておいた方がいい、執着や未練は拠り所が記憶の中にしかなければ、薄れて行くものだと私は思っている。
もしくは美化されるだけ。
美化されたところで、次にあったら私は全く記憶を持っていないなら、残る道は幻滅だろう。
まさかまた一から関係を構築することはあるまい。
時間も、余裕も、必要すらないのだから。
よし、この思考は終わり、仕事に集中しよう。
軽く首を左右に振ってから席について、いつも通りに仕事を広げる。

ひと段落をつけて、ゆっくりと目をあげる。
目の前ににっこにっこと全力で笑うミロさんがいた。

「どうしたの?」
「ううん、なんでもないよ」
「本当に?」
「うん」

問いかけに嬉しそうに笑っているミロさんにならいいけど、と苦笑して返す。
何もないにしては嬉しそうだし、絶対何かあると思った。
まあ、本人が何でもないと言ってるわけだし、スルーしておいた方がいいかな。
いつもより進みの悪い仕事に、きっと私も少しだけ楽しみにしているのだと自覚をせずにはいられなかった。


「じゃ、氷雨ちゃんはこっち」
「え?」

仕事が終わり、ミロさんに声がかけられた。
パチリ、と瞬いて首をかしげる。
これから準備ではないのだろうか。
必要なら手伝おうかと思っていたのだけれど…あー、でも私の歓迎会準備ってなると、私がいる方が迷惑では?
そこまで考えて、持ち運んでいる書類をひとまとめにしてカバンに入れた。
執務室の扉を抑えて、ミロさんがおいでおいで、と手を動かしている。
その表情は満面の笑みで、なんだろう、なんというか…星の子の子供たちを思い起こさせる。
きっと私に喜んでもらえると、喜ばせたい、とそう思ってくれて、ワクワクしている顔だ。
なんだかほっこりした気持ちになりながら、思わず目を細めて笑う。
手を伸ばしてふわふわな髪を撫でる。

「ありがとう」
「っ、えっと、ど、どういたしまして!」

…あー、そうか、こういう簡単なものに対しては感謝され慣れてないのか。
そうだよなあ、そもそも黄金って幼少期からここにいるわけで、師弟か仲間(ライバル)しかいない環境なんだよなあ。
その相手も戦いのために体を鍛えて、その過程でも、聖闘士になってからも命を落とすことが珍しくない。
しかも一緒に育った仲間と聖衣の種類で上下関係ができたり、聖衣貰えなければ雑兵になったり…えぐいな聖域。
逆によく私を喜ばせようと思える情緒が育ったな…?
まあ私が口を出すべきことではないから、胸にしまっておくことにするけれど。
そう思いながらも、私は自分の部屋に案内されて、そこでミロさんが笑った。

「氷雨ちゃんは部屋で待っててね!準備ができたら呼びにくるから!!」

ミロさんは星の子の子供たち、それが私の中で確定しそうなまま、彼は踵を返して走って行った。
あれは、3歳ぐらいの男の子に違いない。
20代の立派な成人男子に抱く感想ではないのかもしれないが、それが事実だ。

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