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「お嫁さんは、こっちの人じゃないのかしら?」
ねえ、あなた。
隣のおじいさんに話しかけるおばあさんに、そうかもしれないねぇ、なんて話をしていて。
ついリアを見てから視線を外した。
申し訳ない…確かに一輝君と恋人に間違われたことはある。
そしてそのまま奢られたこともある。
だが、夫婦だ。
衝撃的だし、なんとも気まずい。
なんて思ったが、気まずい様子を見せるから問題になるのであって、一切そういうものを見せずにいればそれで良いのではないだろうか?
「私があまりに太々しく荷物持たせていたせいですかねぇ…」
「えっ」
「あ、小麦粉」
苦笑しながら肩をすくめて、すぐに話を流す。
これで良いだろう。
と思ったのだが、ちらりと見上げたリアはなんとも複雑そうな表情をしていた。
まあ、納得の仕方については彼自身に任せれば良い。
下手に突っ込んでくるようなこともないだろうと判断して、知育菓子や食玩の並んでいないお菓子コーナーにため息をひとつ。
ああいうお菓子好きなんだけどなぁ…。
「氷雨」
「はい?」
「ああ、いや…なんでもない」
「そうですか?」
踏み込まないのは、それが最善というわけではなく、踏み込まなくて良いと思っているからだ。
私にとってリアは同僚であり知人であるが、あの3人組ほど親しい友人という枠組みにはまだなっていない。
ほぼ毎日一緒に夕食を食べていれば、しかもお互いが料理していれば、否が応でも仲良くなるものだ。
…別に、仲良くなりたくないわけではないけれど。
買い物を終わらせると、リアが買い込んだ荷物を持ってくれる。
「ありがとう」
「いや…気にしなくて良い」
柔らかく笑うリアは、どこからどう見てもただの好青年だ。
ふむ…確かに好青年なら夫婦という発想が出てくるのか、聖闘士として考えると違和感を覚えるのだが。
「じゃあ、帰りましょうか」
「ああ」
無口、というわけではないのだろうが、私のせいで気まずい思いをしているのかもしれない。
では、仲良くなるために一つ考えよう。
「リア、お礼に一緒にお茶しませんか?」
「え?」
「シャカさんに聞いてみて、今日がダメなら別の日になるんですけど…どうでしょうか?」
「…ああ!」
楽しそうに頷いた彼は、それから人目のつかないところで私を抱き上げて聖域へと帰った。
私の部屋まで十二宮を駆け上がって送ってくれた後、シャカに聞いてくる!と元気よくまた走っていく。
それを見送ってからお団子を作り上げよう、と部屋に戻った。