正義 | ナノ



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お仕事を終わらせて、サガさんに仕事を提出する。
いつも通りの確認の後、サガさんはわたしを見上げた。

「明日は聖域に冥界から客人が来る」
「部屋から出ないほうがいいですか?」
「いや、その必要はない。こちらまで来ることも、時間もそれほど長い予定でもない」

ただ伝えておいたほうがいいと思ってな。
柔らかに笑うその顔に、わかりました、と笑顔で返した。
以前の…黒い彼の出てきた後にあった一悶着は気にしないことにしてくれたのだろうか。
少しばかり安心しながら、落ち着いて一礼する。
私が日本に帰っても、問題なく今までの聖域に戻ることができるだろうし、きっとそうするべく努力をしてくれるだろう。
彼らの静かさが、本来のものであれば…間違いなく。
荷物を持って、一度部屋に戻れば、ノックの音が聞こえる。
扉を開ければそこにはシュラが小さく笑顔を浮かべて立っていた。
迎えに来てくれたのだろう、確か今日はデスが料理当番だったはずだし、今日もきっと美味しい夕食になるだろう。
というか誰が担当でも美味しい夕食が出てくるのだけど。
運ばれながら、くすり、と笑う。

「どうした?」
「んーちょっとね」

一気に毒された…は言葉が間違っているかもしれない。
だが、年甲斐もなく星矢君に泣きついてから、彼らとの関わりに線を引くことはやめたのは事実だ。
聖域は理解するのは難しいし、私のいる場所ではないと、今でもそう思っている。
それでも、彼らと関わって行くことを止める必要はない、とも思えるようになった。
彼らは…星矢君たちも含めて聖闘士は、私よりも圧倒的に強い。
いや、強いだと少し語弊があるだろうか。
肉体的にであれば強いで正しいのだが、精神的な面では慣れている、の方が適している。
全部が全部強いなんてない、もしそうであれば彼らはすでに人間ではなくなってしまう。
とはいえ、明らかに私よりも別れを経験しているだろう。
だから、割り切り方を各々で見出して、理解しているはずなのだ。
巨蟹宮に到着したところで思考を区切って、意識を3人へと向ける。

「氷雨、おいで」
「…え、」

にこにこと笑いながら手を広げるディーテに動きを停止させる。
唐突すぎるし、行動理由もわからない。
私の戸惑いを感じ取ったのか、綺麗な顔を憂いに染めて、ディーテは寂しそうに俯いた。

「…仕方ない、私から行くよ」
「え、」

近づいてきたディーテは正面から私をぎゅうと抱きしめる。
何か言いたげに唸ったシュラの声は残念ながら、昨日は君たちだっただろう、というディーテの声にかき消されて。
デスが食事を作りきるまでの時間の間、私はずっとディーテの腕の中にいた。

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