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星矢君たちが帰って、翌日から私はホームシックも回復して、平然と仕事をすることができるようになっていた。
処理能力も、以前と同様に戻せたし、ホッとしている。
彼らの夏休みの予定も聞けたし、一緒に遊園地に行く約束もできた。
三者面談で日本に帰ったら真面目に通帳を見ようと決めたし、やることが多い。
彼らには本当に、何度も何度も助けられているな、と苦笑する。
だからと言って私の過去が消えるわけでもないけれど。
とりとめのないことを考えながら、ディーテとデスとシュラに一緒に食事できなかったことを謝罪して、一緒に夕食を作る。
気にしないでいいんだよ、と頭を撫でてくれるディーテにありがとうございます、と笑う。
「ま、アレくらいのことは言ってくれるってことだしな」
「…デス?」
「なんでもねぇよ」
ぐしゃぐしゃと髪をかき混ぜられて、誤魔化されてるなぁ、と感じる。
が、それほど突っ込むことでもないのだろう、と判断して、ヘラリ、とだけ笑っておく。
それから、いつも通りに食事をして、時間があるからと映画を見て。
「そういえば、今日、サガさんどうされたんですか?」
「ああ、体調が悪いって言ってたね」
ディーテは心配そうに眉を下げる。
シュラはなんとも言い難そうな顔で、伏し目がちに視線を落とした。
「まあ、カノンがいるから問題ねーだろうけどよ」
肩をすくめたデスは、シュラの頭を軽く叩く。
勢いよく顔を上げたシュラにデスは時計を指差した。
つられて視線を動かせば、想像以上に遅い時間。
「え、嘘!?」
「映画一本見てんだから、こうもなるだろ」
当たり前だろ?と笑う悪い顔に、ついつい反抗したくなってしまう。
知ってますー、と不機嫌そうに答えて、シュラに近寄る。
ディーテがぱちり、と瞬いて、楽しそうにくすくすと笑い声をこぼした。
「ほら、早くしないと暗くなるよ?明日も仕事だろう?」
「あ、いえ…私、沙織様から、火曜日は定休にするようにと仰せつかりまして」
「命令でなくては、休まないからか」
はあ、と呆れたような表情を浮かべられて、心外だと眉を寄せる。
普段休まないのは、休みの必要性を感じないからであって、決して休みたくないからではない。
休めるのならばダラダラと休んでいたいのは、彼女のときから変わらない性質だ。
「ッ、」
「どうした?」
彼女、なんて、久しぶりに思った…“お願い”を聞いたから、かもしれない。
普段は“わたし”として、私の一部として考えているのに、全く別物として切り離してしまった。
私は二つの記憶が混ざり合ってできているけれど、どちらも私なのだ。
どちらかが欠けても、今まで生きてきた私ではなくなってしまう。
それがわかるようになったのは、荒れていた時期を過ごしたからで、誇れるものじゃない。
頭を振って、早く帰ろう?と今日送ってくれる当番のシュラの手を取った。