正義 | ナノ



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「そろそろ女神が来る時間じゃないか?」
「えっ!あ、ほんとだ?!一輝君!行こう?カノンさん、ありがとうございます」

にっこり、一輝に向けたままの笑顔で礼を言われ、思わず目を見開く。
いや、としか言えないが、その間に彼女は一輝の手を引いて俺の横をすり抜ける。
そのまま執務室から出て行き、残った青銅たちが口をとがらせる。

「氷雨さん、いつも一輝一輝ってさー!」
「一輝が最初に気がついたからって、酷いんじゃないか?」
「兄さんばっかりずるいよ!僕だって氷雨さんを抱き上げるくらいの力はあるんだから!」
「言うより追いかけたほうが早いぞ」

紫龍は最後にそういったかと思えば、二人を追いかけて姿を消す。
それから、出し抜かれたような状態になった三人は不満そうな顔をしながらも、追いかける。
ふ、と氷河が立ち止まり、笑いながらサガに書類を渡した。

「氷雨さんに任されていた、今日から3日分の仕事だ」
「…早いな、」
「俺たちが“お願い”したからな」

にこり、笑った氷河はすぐに先に行った青銅の後を追いかける。
唖然とその後ろ姿を見送って、仮眠室を覗く。
丁寧に片付けられた後のあるその部屋に、どうやったらあの速度で教えながら仕事を終えられるのか、と首を傾げる。
サガが渡した仕事量が少なかったのだろうか?
なんて、考えていても始まらない。
あとで聞いてみればいいだろう。

「ふむ、女神がいらっしゃったな」

シオンの声が執務室に響く。
教皇室から珍しく出てきたらしい。
女神の小宇宙で聖域が満たされれば、その近くにいるらしい氷雨の小宇宙も同時に広まる。
水と空気と音に例えたが、あながち間違いでもないらしい。
女神本人の小宇宙がどこか柔らかなのも影響しているのかもしれない。

「…」
「サガ?どうした?」
「…いや」

ふと、視界に入ったサガに声をかければ、戸惑った様子で、首を左右に振る。
なんでもないのだと、そう告げるその顔に眉を寄せた。
どうやら疲れではなさそうなのだが…。

「女神を迎える準備はできているのか?」

シオンの言葉に空気が固まる。
執務室が次の瞬間にばたついたのは言うまでもないだろう。

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