正義 | ナノ



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測る基準が書類の処理速度、というのもどうかと思うが、まあ、彼女にとってはそれが一番わかりやすいのだろう。
一輝の声が低く響いた。

「ほう…?気がついていたのか?…開けないなら、無理やりにでも開けてもらうぞ?」
「やだ!」

一輝の言葉に即答で返ってきた子供のような言葉。
まじまじと扉の方を凝視する黄金たちだが、青銅たちに混乱は見られない。
つまり、アレは彼女の素なのだ。
咎めるような一輝の言葉に、打てば響くように返される子供の言い訳のような屁理屈。
一輝と氷雨の様子にため息をひとつ吐いて、紫龍が扉の方へ向かう。
そっと、一輝に離れるように告げて、ドアノブに手をかけた。

「氷雨さん、あなたの作ったご飯が食べたくて来たんですが…ダメですか?」

柔らかな声で告げながら、ドアノブを少しずつ動かす。
瞬間、思い切り扉を開いた。
奥でドアノブを抑えていたのだろう氷雨が転がり出て、計算されたように紫龍の腕へ。
柔らかな瞳で彼女を見つめた彼は、口元を緩めて酷く優しげな声で囁いた。

「おかえりなさい、氷雨さん」
「うぇ…」

隙間からチラリと見えた彼女の顔は、弱々しくて。
今まで黄金が見たことのない、彼女が意図的に見せようとしなかった感情のそれ。
日に当たらないせいか色の白いその腕が、紫龍の黒髪と絡まる。
紫龍は一瞬眉を寄せて、ゆっくりと深呼吸。
彼女の黒髪に彼の手のひらがそっと添えられる。

「部屋に行きますよ?」

不相応な色気すら混じっている掠れ気味の声に、こくりと従順に頷く氷雨。
紫龍はその彼女を軽々と抱き上げた。
彼とて聖闘士だ、そうすることができないはずもないのだが、黄金たちにえもいわれぬ感情を植え付ける。
甘えるように絡められた腕に力が込められたのが、見ていた方からもわかったからだろうか。
彼女はひどく弱い存在なのだと、思い知らされたようだった。
そんな空気を壊すかのように、自身を取り戻した紫龍の声が響く。

「氷雨さんは相変わらず、力が弱いですね」
「紫龍君のばか」

甘えるような柔らかな声。
そんな声を残して、彼女は紫龍とともに部屋を出る。
数分もしないうちに紫龍は軽いため息とともに執務室に帰ってきた。

「一輝、」
「お前の分はここからここまでだ」
「ああ…それくらいなら構わない。氷河と瞬の分はどうする?」
「瞬は俺が教える、氷河はお前のとこから分けておけ」

二人は書類を見ながら話して、紫龍は仮眠室へ向かい幾つか椅子を持ってきた。
カノンの隣、先ほどまで氷雨が座っていたその場所周辺に椅子を置いて、二人は平然と氷雨の仕事を引き継ぐ。
ただただ唖然とその光景を見ていた黄金に何を言うでもない。
そんな静寂を保っていた執務室に入ってきたのは、瞬と氷河の二人だった。
なんとも言えない表情を浮かべた彼らは、紫龍と一輝の近くへ向かい、二人同様に書類を見始める。
その動きにハッとしたのか、カミュが問うた。

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