正義 | ナノ



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それは突然だった。
執務室にやってきた青銅5人組は一直線に氷雨の元へ向かう。
彼女の隣に座るカノンが顔を上げるが、そんな反応を無視し、星矢が声を上げた。

「氷雨さん、終ったぜ!…後どれくらい?」

一拍置いて、静かに声が返る。

「あと、30分…やっぱり1時間待って、星矢君」
「…わかった」

返事があったことにカノンは彼女の顔をまじまじと見つめる。
が、氷雨本人は無意識の返事なのか、その視線に気がつくこともなく、書類に視線を落とし続ける。
そんな彼女をひと目だけ見て、一輝は声を上げた。

「紫龍、財団の方を取ってくれ」
「ああ。氷河は一応氷枕を用意しておけよ」
「わかっている。瞬、鍋焼きうどんでいいか?」
「そうだね、この様子だと多分食べてないだろうし…星矢も手伝ってきてよ」
「仕方ねぇなぁ…瞬は様子見てろよ、その間に全部用意しておくから」

流れるような会話と共に、紫龍は氷雨の鞄から幾つかの書類を取り出して一輝と自分に分けている。
氷河と星矢の二人はため息まじりに執務室から出て行き、瞬は机を挟んで彼女の前で笑う。
氷雨が2枚ほど書類を進めた瞬間に動きを止めた。
そして、書類を離して、机に勢いよく手をつきながら顔を上げる。

「…星矢君?!」
「あ、星矢ー、氷雨さんやっと気がついたよー」

瞬は楽しそうに声を張り上げる。
星矢のわかったーという大きな声が聞こえたが、彼女はそれどころではなかったらしい。
小さく口を開いて、理解ができないという表情だった。
が、突然その瞳を潤ませる。
今まで、彼女は認めなかったが、シオンとシュラが見たといった、涙だった。

「氷雨…?」

誰かの声、もしくはその顔を凝視していた皆の心の声だったのかもしれない。
響いた言葉とともに、頬を滑り落ちた雫は、そのまま書類を叩いた。
一拍後、氷雨は慌てたように立ち上がり、仮眠室の扉を開く。
あっけにとられていた黄金聖闘士たちが対応できないくらいの俊敏な動きで閉じこもる。
そこへゆっくり瞬が声をかけた。

「氷雨さーん、開けてよー」
「むっ、むり…!」
「無理って…別にそんなに気にしなくていいでしょ、結構あることだもの」

その瞬の言葉に全員の動きが完全に仮眠室方向に集中することに変わった。
つまり、彼女はよく泣くのだろうか、サガは眉を寄せて考える。
そんな黄金たちを歯牙にもかけず、瞬の後ろへと一輝が回る。
扉の方へ足を進め、どん、と扉を叩いた。

「氷雨!どうせ自分の体調不良も気がついていないんだろう?いいから出てこい」

その表情は心配そうなそれであり、今までの不死鳥座の一輝と同一人物には見えない。
咎めるような口調とその内容に、シュラとアフロディーテ、デスマスクが眉を寄せた。
体調不良に気がつかないような生活をしているのか、と。
しかし、それは彼女の返答で否定される。

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