正義 | ナノ



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なにやら考え込んだディーテは思い当たる節があったのだろう。
目を逸らして肯定してくれた。
そんな反応に、でしょう?と笑いながらも、若干感じる息苦しさに蓋をする。
彼らからの過保護は聖域に慣れていない私を心配するものだ。
聖闘士でも女官でもなく、初めて見る人種で距離の取り方もわからない…それは此方もか。
これが最善であろうと、言い聞かせて自分自身を誤摩化すように一度瞬いた。

「いうほど過保護か?」
「…え、まさかの無自覚ですか」

デスの不思議そうな顔に思わずぽかん、と口を開けてしまう。
と、そのデスにポップコーンを一つ、口の中に転がされた。
もぐもぐと咀嚼しながら、まじまじとその顔を見る。
心底不思議そうに首を傾げているデスにディーテとシュラを確認したくてたまらなくなる。
え、なんか聖域だとこれが普通なの?

「確かに世話はしてるとは思うけどよ」
「ええ、過保護に足を踏み入れかけてますよ?」
「…そこまでかい?」

ディーテが驚いたような声を上げた。
…えっ。
これでも控えめに言ったのに!完全に過保護なのに!
ついでに言うのなら、彼ら3人だけではないのだが。
一縷の望みをかけてシュラに視線を送ったが、案の定というか、それ以上というか。
懐が広いと言うことにしておこう。
そうしないと私の精神が圧し潰されてしまいそうだ。

「だって、このままだと本当に私何も出来なくなりそうですよ?」

身体能力と体力的な問題があるとは言え、基本自力での移動がない。
料理は時々するとは言え、それは時々であって、毎日ではない。
此処数日は、出掛けることが多くて仕事一途に何かをしている訳でもないのだ。
洗濯や掃除は前からメイドさんが殆どやってくれている。
私には一体どんな価値があると言うのか。
確かに仕事は出来る、だが、それだけなのだ。
求められているのは確かに仕事量なのだろうし、私と言う人選は間違ってはいない。
でも、その人選が必ずしも私でなくてはならないかと言えば、そうではない。
言い方は悪いが、入れ替えることの出来る、言うなれば機械の歯車と何ら変わらない存在である訳だ。
そんな私が甘やかされて、何も出来なくなったら…そう思うと恐ろしくて仕方ない。

「溺れて、しまいそうです」

へらりと、笑いながら告げた私の言葉に三人は黙った。
上手く呼吸が出来なくなってしまいそうだ、なぁんて。

「溺れるといえば、黄金聖闘士って、水の上も走れるんですか?」
「は?」
「ほら、トカゲだったかの仲間でいるじゃないですか、水面を走るのが。ほら、足が沈む前に反対の足を動かしてるっていう…」

つまり、光速で足が動いていれば水に足が沈むことがない訳で。
私の真剣な顔に三人は気圧されたのか、それとも、誤摩化されてくれたのか。
三人はどうだろうなと首を傾げる。
人類の夢なのに挑戦したことがなんですか!と私が驚けば、彼らは海の上を走るくらいならテレポーテーションを使う、と。

「テレポーテーションなんて、ひげんじつてきだもん」
「お前も経験してるくせに何言ってんだ」

こん、と頭を小突かれて、む、と眉を寄せる。
そんな私を誤摩化すようにお昼ご飯は私の好物ばかりを作ってくれた。

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