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特に問題も起こらず終わった食事会。
帰ろうと思ってふと気がついた…私、どうやって帰れば良いんだろうか?
「氷雨、行くぞ」
「…え?」
かけられた声に振り返る。
満足そうなシャカさんが私のすぐ斜め後ろに立っていた。
予想以上の近さに吃驚して一歩後ろに引く。
「登れんのだろう?」
「…お世話になります」
多分、連れて行ってくれると言うことなのだろう。
たしかに此処は金牛宮で、アルデバランさんの宮だし、牡羊座であるムウさんの白羊宮は一つ下だ。
貴鬼くんもムウさんと一緒で白羊宮。
そうなると、四つ上の処女宮のシャカさんに白羽の矢が立つのは当たり前のことなのだろう。
…二つ上のデスの所まで行ければ、デスにお願いすることも出来るけど。
それでも良いかもしれないと思った瞬間だった。
「っ?!」
「行くぞ」
ぐっ、と独特の圧力。
簡単に抱き上げられて、何も言えないままただシャカさんの伏せられた目を見る。
さらりと金髪が揺れて顔が私の方へ向けられた。
「なんだね?」
「…いえ、なんでもないです」
聖闘士って恐ろしいな、と身を以てもう一度自覚してから、首を左右に振る。
黙り込んだ私になんとなく満足そうな顔をしたシャカさんはゆっくり歩き始める。
細っこい身体のどこにそんな力があるのかと不思議に思わないではないが、実際抱き上げられているのだから仕方ない。
デスやシュラたちよりもゆっくりとした歩調で、部屋まで送ってもらう。
丁寧に下ろしてもらって、何だか意外に思いながらも頭を下げる。
「ありがとうございます、シャカさん」
「次の機会を楽しみにしている」
「今度は…お茶会にでもしましょうか」
食事を作るのは…当分勘弁してほしいな、と思いながら答える。
作りがいは確かにあるけれど、大変な量なのは変えることの出来ない事実だ。
綺麗に食べてくれて嬉しいんだけどね。
「それもいいな…そのときは、」
言いかけたシャカさんは口を噤んだ。
私も何か言うのはおけない気がして、黙り込む。
ふと伸びてきた手が私の頬に触れてから、そっと離れる。
「私自ら茶位なら入れてやっても構わん」
私はぽかん、としてから、ありがとうございます、と笑った。