正義 | ナノ



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こくりと頷いて、シオンさまと貴鬼くんの元に戻る。
それから三人で食事をして、午後は約束通りに新聞を見せてもらった。
ムウさんは中々勉強熱心らしい。
何種類かある新聞に驚いた。

「そういえば氷雨、聞きたいのですが、いいですか?」
「勿論です、何でしょうか」
「…貴女にとって、家族、とは、なんですか?」

その言葉にぱちり、と瞬いた。
私にとって、ということは、私の意見を求めているのであって、決して辞典的な答えを求めているのではないのだろう。
友人とも、同士とも違う、家族。

「言葉にするのは難しいのですが…私にとっては、自分の素をありのままにぶつけることの出来る存在、でしょうか?」
「…ありのまま、ぶつける?」
「ええ。相手の都合を考えずに、わがままを言える相手、です。叶う叶わないは別ですけど」

流石に色々考慮はするけど、極論、そうなんじゃないかと。
私の中の考えであり、一般とは違うかもしれない、ムウさんとも勿論違うだろう。
まあ、あの顔を見れば…違うってことは理解できる。
怪訝そうな表情をしたムウさんは、じっと私を見つめた。

「家族に対しては、何をしても許される?」
「まさか。家族とは言え、自分ではありませんから、それはないでしょう」

黙り込んだ彼は、ふと、思いついたように問いかける。
確か、貴女には兄がいましたね、と前置きをしてから。

「貴女の兄が、父を害したら、貴女はどう思いますか」
「…そうですねぇ、想像でしかないですが、酷く苦しむだろうとは」
「苦しむ?」
「私は父も兄も好きですから、父が害されて悲しい、兄が憎い、理由が知りたい、兄を信じたい、この辺は確実でしょう」
「貴女だったら…貴女だったのなら、どう、しますか?」

今にも泣きそうな顔で私を見つめてくる彼に、やっと気がついた。
これは、多分、シオンさまとサガさんについてだ。
まあ、私が踏み込める問題でもないので、質問にだけ答えよう。

「まず、兄に理由を聞きます。それから、父にも話を…と害するは怪我で止めておいたんですけど、大丈夫ですか?」
「え、ああ、はい、それで大丈夫ですよ」
「わかりました。父に話を聞いて、お互いがどう思っているのか聞きます。あと、兄には反省してるかどうか」

肩をすくめるようにして、少し宙を見る。
私だったら、そのあとどうするだろうか。
話を聞いて、それから、

「…私が、どう思ったかも、言葉を尽くして伝えます。最後に、怒りの籠ったビンタを二人に」
「二人にですか?」
「二人とも私を傷つけた訳ですから。その感情をありのままにぶつけたら、内側に溜めて鬱々してるより健康です」

それに、話を聞いた所で、どちらが悪いのか、きっと私には判断できないでしょうから。
そう続けて、力なく笑いかける。
頭使った所為か、若干頭が痛い。
首を傾げてムウさんを見ると、相変わらず泣きそうな顔をしている。
ふと思いついたことを付け足した。

「勿論、母を慰めたり、母の暴走を見守ることも、私の仕事だと思っています」

少しだけおどけてみせれば、ぱちりと瞬いたムウさんが破顔する。
小さく、そうですね、と呟くように告げた彼は、同じくらいの声の大きさで、ありがとう、と続けた。

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