正義 | ナノ



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貴鬼くんが案内してくれたのは、とても綺麗な泉だった。
ぱちり、と瞬いて、口元を緩める。
木漏れ日が差し込み、静かに水の流れが聞こえるような、神聖さすら感じられる場所だ。
むしろ近づいて平気な場所なのかとすら、戸惑う。
足を止めていると先に進んだ二人が振り返った。

「来ないのですか?」
「あ、いえ…なんか、入っていい場所なのか、不安になってしまって」
「何言ってんだい、こんなとこいっぱいあるよ!」

ふふん、と自慢げに胸を張る貴鬼くんに笑みを浮かべる。
そうなんだ、よく知ってるんだね、と彼の頭を撫でて、泉に近づいた。
澄んだ水は泉の底を近くに見せて、思わずじっと覗き込む。
魚はいないらしい。
綺麗すぎていないのか、それとも元々存在していないのか。
ぼんやりとそんなことを考えながら、そっと水に手を伸ばす。
指先がひんやりと包まれて、気持ちいい。
あまり下を向くと、仮面がとれてしまうので、遠くの水面を見つめる。
それから振り返って、笑った。

「綺麗な場所ね」
「うん!おいら、日本にいたときから、お姉ちゃんを此処に連れてきたかったんだよ!」

その笑顔にきゅんとする。
可愛い、めちゃくちゃ可愛い。

「ありがとう、貴鬼くん」

日本にいたときから、なんて、嘘でも嬉しい言葉だ。
そう思いながらも、目一杯、声で感情表現をする。
何たって、今は仮面をつけているのだ。
笑った所で、向こうから見える筈も無い。

「氷雨、貴鬼、座って休憩しては如何ですか?」

暫く泉の畔で貴鬼くんと遊んでいると、ムウさんの声が優しく響く。
一度瞬いてから、貴鬼くんに顔を向ける。
そんな私に気がついたのか、行こう?と楽しそうに私の腕を軽く引っぱった。
ムウさんの隣に貴鬼くんが、その隣に私が座って、飲み物が渡される。

「ありがとうございます」
「いいえ、」
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