ひとり | ナノ



2


「わかった、約束ね?」

その会話をしてから、二人はそれぞれの作業に戻った。
数分後、といってもいいだろう。
それぞれ自分の作品が完成したか確認して、二人は向い合った。
お互いのそれを明らかに気にしながらも、気恥ずかしいことでも書いたのか、隠すようにしている。

「えっと…食べようか、先に、そのケーキを向こうに持っていっておいて?」
「これが、ケーキ?」
「うん、そうだよ、セフィロスくん食べてみたいって言ってたでしょう?」

そういえば、物語を読んだときに、そんなことを言ったかもしれない。
セフィロスは自分の発言を振り返りながら、むずむずとした気持ちを抱えた。
何とも形容しがたいらしく、複雑な表情をしている。
そんな顔を見ながらも、氷雨は皿とナイフを用意した。
セフィロスは自分の飾ったケーキの乗った皿をテーブルに運んだ。
それ程大きくないケーキは、既に鍛えられ始めた彼の手には負担もかけない。

「じゃぁ、おやつにしようか」

へらりと笑みを浮かべた氷雨はその手にパステルブラウンをもって、セフィロスの後を追った。


そうして、今、セフィロスの手には小さなサイズのショートケーキが乗っている。
無論、彼の手作りだ。

「セフィロス、それは…?」
「ショートケーキだが?」

アンジールの問いに至極当然のように首を傾げながら返す。
確かに、その手に乗っているのが、ショートケーキだということは、アンジールにも理解できる。
だが、そのショートケーキがセフィロスの手に乗っているその理由こそ、彼が知りたいことであって。
アンジールの隣にいるジェネシスは、その手の先をじっと見つめる。

「…お前たちの分はキッチンだ」

顔の高さまでショートケーキを持ち上げて、セフィロスは告げる。
ジェネシスはその瞬間にキッチンに向かった。
アンジールも何処か楽しそうに、その後を追う。
その姿を見送り、セフィロスはソファーに座った。

「ショートケーキじゃない…!」
「これはチーズケーキか?」
「ベイクドチーズケーキ」

ジェネシスとアンジールの声にそう返して、セフィロスは自分の目の前にあるショートケーキを見つめた。
ショートケーキに乗せた、白いままのチョコレート。

「セフィロス、これは何だい?」
「先を切れば、文字が書けるチョコだった、もう固まってる」

それから、もう一度、あのときとは違い、何も書いていないそれを見つめた。
文字を書こうとして、毎年、彼の手が動かないのだ。
それに、このケーキも、彼女が作ったものではない、とセフィロスは押し込めるように息を吐く。
上の白いチョコレートを手に取って、口に入れた。
独特の味であるが、食べられない訳でもない。

「このショートケーキも食べていい…俺は寝るから起こすなよ」

無表情で、しかし、何処か泣きそうな雰囲気で。
二人は声をかけることが出来ないまま、セフィロスを見送る。
寝室に一人きりになった瞬間、セフィロスはしゃがみ込んだ。

幸せな記憶が心を抉る
(氷雨、いつもありがとう、これからもよろしく)
(セフィロスくんのこと、ずっと、大好きだよ)

*****
あとがき
壱萬打企画で匿名さまのリクエストです。
何で突然シリアスになったのか、全くわからない。
とりあえず、セフィロスが勝手に落ち込んだような気がする。
…甘く、ほのぼのにする筈だったのに、な。

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