ひとり | ナノ



幸せな記憶


「氷雨、これは何だ?」

実験から帰ってくるなり、キッチンに駆け込んだセフィロスはぱちり瞬いて、首を傾げた。
彼女は手招きしながら、笑みを浮かべる。
彼の目の前には、真っ白な固まりがあった。
正確に言うのであれば、白が飾られた、高さの低い円柱である。
銀色が踊って、下の黄色が隠されていく様子をまるで魔法でも見たかのように目を輝かせていた。
その様子にくすりと微笑んで、彼女は苺と生クリームを差し出す。

「一緒に飾ろうか、ね?」
「…え?」
「セフィロスくんと一緒に作れたら、嬉しいから。」

困ったように視線を彷徨わせてから、セフィロスは戸惑いながらもこくりと頷いた。
それから、彼女と同じくらいの手に生クリームの絞り袋が乗せられる。
初めて触った感触にか、驚いたように目を見開くセフィロス。
くすくすと柔らかく笑った氷雨は彼の後ろに回って、その緊張に固まっている手に手を添えた。

「こうやって、絞り出すの。」
「う、わぁ…」

何とも言えない声を上げて、しかし、興味深そうに、じっと見つめる。
氷雨があと4ヶ所に同じように絞ってね、と声をかけると、綺麗な髪を揺らし、驚いたように振り返った。
彼に笑顔を向けてから、彼の銀糸に指を通す。
後ろで一つに縛ってから、お願いね?とゆっくりとした声をかけた氷雨にセフィロスはこくりと頷く。
それから一度シンクで手を洗ってから、彼女は同じような柔らかなパステルの茶色を持つ。
自分に任された仕事に一生懸命になっているセフィロスの横で、白のそれより小さい円を飾った。

「氷雨、出来た!」
「わ、セフィロスくん、上手だね!」

彼女は満面の笑みを浮かべてセフィロスに視線をあわせる。
手伝ってくれてありがとうと告げれば、彼は照れたように俯いた。

「じゃぁ次は、苺を乗せようか」

好きに飾っていいからね、そう続けた氷雨に、セフィロスは一度瞬いてから、こくりと頷く。
ふと思い出したように氷雨は冷蔵庫から何かを取り出す。
セフィロスはそれをじっと見つめていると、彼女はニコニコと笑って、よく見えるようにさし出した。
それは、柔らかな白で、縁が茶色くなっている、彼に取っては初めて見る物だ。
その隣に、茶色の、多分チョコレートだろうそれが小さな歯磨き粉のように厚いビニールに包まれている。

「どっちもチョコレートだけどね、此方の平らな方に、このチョコペンで文字が書けるの」
「…文字が?」
「そうだよ、ちょっと書きにくいけどね?」

ちょきり、鋏で先を切った彼女はそれをセフィロスに渡した。
にこりと笑って、私は此方を作ってるから、ともうひとつの白いチョコレートを見せる。
セフィロスの目はゆっくりと柔らかな茶色のパステルのそれを捉えた。
ゆっくりと首が傾げられる。

「それも、チョコレート?」
「うん、そうだよ。よくわかったね」

ふふ、と楽しそうに笑った氷雨は見ないでね?と首を傾げた。
その言葉にこくりと素直に頷いたセフィロスが自分のチョコレートに目を向ける。
少し無言になってから、すぐに顔を上げた。

「氷雨も、見ないで」

彼女は驚いたように一度瞬いてから、笑みを浮かべる。

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