ひとり | ナノ



2


俺たちの目の前で髪を縛ったセフィロスは、手慣れた様子でキッチンを片付けていく。
その姿は、どこか、実家にいた母を思わせる。
とはいえ、動きは何処となく男らしくて、決して母には見えないのだが。
ふと見える表情はかなり険しくて、今までの訓練などでは見たことがない顔だ。

「アンジール、洗い物くらいは出来るな?」

いきなり声をかけられ、びくりと肩が跳ねる。
が、すぐに言われた内容を反復して、すぐに頷き、キッチンに入った。
声が疑問系を取っていただけの命令だったな、と思いながらセフィロスに視線を向ける。
その手元は同年代とは思えない程に料理慣れした早さで、野菜を切っていた。
実家で聞いていたような、規則正しいリズムで、音と音の間隔は短い。

「この食事の後に…いや、今日から、暫く俺を手伝って料理を覚えろ。」

完全に命令形だった。
わかった、と頷いて、洗いものをしながらセフィロスをちらりと見る。
材料を切る動作は手慣れていて、包丁を器用に、丁寧に操っていた。

「今日は簡単なものしか作らないからな。」

疲れたように言うセフィロスに、申し訳ない気持ちになる。
彼は、長期任務から帰ってきたばかりなのだ。

「物を炒めるときは油をしくか、油の出る食材を先に、それから火の通りにくい物を順に、だ。」

いいな?と告げた言葉に首を傾げる。
油の出る食材?と思ったのがバレたのだろうか、一度深いため息を吐かれた。

「ベーコンを焼いたことすらないのか、お前ら…。」

ひくり、頬を引きつらせたセフィロスは明らかに信じられないと言う目をしている。
無言になって、視線を彷徨わせてから、そういえば脂身か、と思い至った。
知識は有ったにも拘らず、活用できていないのでは意味が無いのだ、と気がつく。
そう考えると、この男の強さはその部分にあるのかもしれない。
知識を持ち、それを活用する方法まで知っており、更に実践できる。
だからこそ臨機応変に戦闘中の対応が出来るのだろう。
そして、それ故の、英雄。

「…聞いているのか」
「ッ、」
「料理中の考え事は慣れるまでやめておけ」

言われた瞬間に、セフィロスの手元の油がばちり、と音を立てて気を抜いていた俺の手についた。

「ッ…!!」
「その程度なら冷やすまでもないが、痛みが有るようなら流水につけておけ」

こちらを見ずに炒め物を続けたままの一言。
と、同時進行でスープを作っているのが見えた。
にも拘らず、隙を見て、材料を別の切り方で切っている。
…一度に幾つのことを同時進行させているのか。
任務先で視野が広い理由も、もしかしたらこの辺りにあるのだろうか?
セフィロスを見ながら、皿洗いを続ける。

「ジェネシス、入ってくるな」
「…何でアンジールはよくて、俺はダメなんだ?」
「自分で考えろ」

はあ、とため息を吐き、スープの味見をすませたセフィロスは、俺に向かって皿の場所を問いかけた。
慌てて、皿を指差せばセフィロスは手慣れたように料理を飾り付ける。
その皿をジェネシスに渡し、運ぶ位は出来るだろう?と挑発するように告げた。
丁寧に運ばれたその料理はいつも通り美味しい。
次の食事から、宣言通りに俺はセフィロスによって料理を教えられた。
その料理が年数を重ねるにつれ俺の趣味になっていくとは、誰も思っていなかったに違いない。

*****
あとがき
壱萬打企画で匿名さまのリクエストです。
最初のページはセフィロス、2ページ目はアンジール視点です。
その後の料理の腕は、セフィロス(和食)>アンジール(料理全般)>セフィロス(和食以外)>>>>ジェネシス(インスタントのみ)になるかと。

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